ヒーローズ！～終わりの始まり、始まりの終わり～｜リアクション

ヒーローズ！～終わりの始まり、始まりの終わり～

　――再び、ビルの屋上にて

　日本刀を赤に染める血を払って、御剣刀は南波太陽へと向き直った。
　太陽は、護衛である高野有紀が地に伏したというのに、相変わらずの無表情だ。
　ただただ、がらんどうの瞳に刀の姿を捉えるのみ。
「……護衛が必要だった理由がよくわかるな。本当にただの《器》なのか」
　刀の呟きにも、太陽は応じない。
　そんな太陽の胸に輝く《魔女の遺産》のことを思って、刀は眉を顰めた。
「さて、どうやって取り除けばいいのか……」
「……簡単だよ。あんたがそれを、手に取ればいい」
　声に、振り返る。赤い水溜まりの中、高野がこちらを見上げていた。
「そうすりゃ、あんたがそれを手に入れるか、新しい《器》になるか……一か八かさ」
「高野……洗脳が、解けたのか……」
　その場に何とか身を起こしながら、八神修が声を漏らす。
　修の声を耳に、高野は細く息を吐いた。
「みたいだね。……僥倖だ。死ぬ前に、私に戻れて」
「死なせはしないよ。すぐに、医療スタッフを手配する。……よし、何とか無事だ」
　修が画面にひびの入ったスマートフォンに指を走らせる中、ぽつり、高野が呟く。
「……あんたが私を呼ぶ声が、聞こえた気がしたよ……」
　それきり、高野は意識を失ったようだった。
　２人のやり取りを耳に、刀は、太陽の胸元へと手を伸ばす。
　《魔女の遺産》に手が触れるや、それは、するりと刀の手のひらに収まった。
「――任務完了、か」
　結晶の輝きをその眼差しに映しながら、呟く刀。
　その目前で、瞳に色を取り戻した太陽が、不思議そうに辺りを見渡した。
「ここ……オレは……」
「原因不明の記憶喪失、だったか。自分のことが分からない、というのは辛いだろう」
　修の言葉に、太陽が目を見開く。
　そんな太陽へと、修は柔らかく笑み掛けた。

「君は治る。大丈夫だ」
　専門のモレイビー医師を紹介する、と修は続ける。
　太陽は何か言いたいことがあるというふうに口をぱくぱくとして、やがて静かに涙した。
　その様子を目にふっと口元を緩め――ゆるゆると瞼を閉じる修。
（――争いは、完全にはなくせない。争いのない世界というのは、現実的じゃない）
　だからこそ、それを踏まえてどんな社会を作り、どう生きるかが大事なのだと修は考える。
（能力者も非能力者もない。本当に戦うべき相手は、人間を害する犯罪だ）
　争いや、犯罪。忌むべきもの達。
　それらを可能な限り減らす為に、ひとりひとりが行動するのが修の目指す世界だ。
（制度を整備し、社会を変えていきたい――共に生きる世界へと。それが、俺の道だ）
　実際に法を整備し社会を動かすには、まだ力が足りないだろう。
　それでも、修は夢見ずにはいられないのだ。
（非能力者の政治家だからこそ、できる活動だと。そう、思うから――）
　希望に満ちた未来を夢見ながら、修は意識を手放した。
　太陽がすすり泣く声だけが辺りに響く中、刀は満天の星空を見上げる。
「――他の戦場も、無事に潰せていればいいんだが」
　手の中では、《魔女の遺産》がいっそ無垢な様子で輝いていた。

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