ヒーローズ！～終わりの始まり、始まりの終わり～｜リアクション

ヒーローズ！～終わりの始まり、始まりの終わり～

　――再び、謎の倉庫にて

　ぺたり、とその場に座り込んで、椿美咲紀は安堵の声を漏らした。
「や、やりました……任務完了、なのです」
「さて、装置がちゃんと壊れてくれてるか、確認しねぇとな」
　何でもないような調子でそう言って、水守流は倒れ伏す五十嵐尚輝の元へ。
　涙をぽろぽろと零しながら五十嵐の頬を撫でる御巫時子へと、
「安心しな。装置はもう使い物にならねぇが、こいつはまだ、ギリギリ助かる」
　と、流は装置の状態を慣れた手つきで確認しながら言葉を掛ける。
「ほ、本当ですか……？」
「ああ。尤も――こいつの身柄は、俺達『アーク』が頂くがな」
　言うなり、流はさっと手を掲げて「ソウルスティール」と叫んだ。
　周囲の者達から、エネルギーが奪われていく。
　今度のターゲットは、一般人ではなく時子や美咲紀、新田亮だ。
「……そう言えば、お前の目的は知らされていなかったな……」
　苦しげに顔を歪めて膝を折りながらも、流を睨みつける亮。
　その言葉に、流はにたと笑った。
「俺の目的は五十嵐の捕縛だ。『アーク』に連れ帰って尋問する。装置の破壊は二の次だ」
「そんな……！」
　その場にくず折れたまま時子が悲鳴じみた声を上げる中、ラムネ菓子を素早く口に放り込む流。
　もう一度発動のトリガーを引き、ロッコーンのオーラを両手に纏う。
　流はその手で、先ずは亮に触れて急速にエネルギーを吸い取った。
「ぐ……！」
「お前の能力は厄介なんでな、封じさせてもらうぜ。っはは、直は早いだろ？」
　目を見開いた亮の身体が、力を失い前のめりに倒れる。
　美咲紀がポトスの蔓を残った気力を振り絞って伸ばすのを、流はぐりと踏み躙った。
「『アーク』に……五十嵐さんを渡すわけには……」
「そう言うだろうと思ったが、無駄な争いはしたくないんでな。『アーク』の不始末は『アーク』が晴らす」
　流の手が触れるや、美咲紀の残り少ないエネルギーが吸い取られていく。
　そのまま、美咲紀はぷつりと意識を失った。
　五十嵐の身体を支えながら、流は、呆然としている時子へと顔を向ける。
「さて……お前も一緒に来るか？　五十嵐の恋人、利用価値は幾らでもある」
　問いに、時子はゆるゆると頷いた。
　この先に待つのが、過酷な運命であることは間違いがない。けれど。
（私は……何があっても、尚輝さんと共にありたい）
　固い誓いを胸に、時子は流へと声を張る。
「行く前に、一つだけ。やり残したことを、させてください」
「内容によるが、聞いてやってもいい」
「ここに居合わせた人達の怪我を、私の力で癒させてほしいんです」
　理解できない、とでも言うように肩を竦めて、しかし流はそれ以上何も言わなかった。
　それを確かめて、ラムネ菓子を口に運ぶ時子。
　その姿が、見る間に麗しい天使へと変じた。

「……巻き込んでしまって、ごめんなさい」
　舞い散る羽根が、傷付いた者達を優しく癒していく。
　そうして時子は、流と共に倉庫を後にした。
（っ、くそ……）
　動かない身体を忌々しく思いながら、亮は僅かに残った意識の底、先の出来事を思い出す。
　戦いの最中、五十嵐の爆弾が作戦に影響を及ぼさないように努めていた亮。
　彼だけは、大天使天吏の五十嵐への接触を目撃していた。
（何か……良くないことが起こる気がするな……）
　不吉な予感を、亮は自身の胸に噛み締めるのだった。

　夜の中を、最後の仕事を果たす為に、天吏は行く。
　――政府も『アーク』も、僕達を縛るものは須らく僕の敵だ。
　五十嵐の険呑な言葉は、きちりと天吏の手元に収められていた。
　天吏は自身の身体に、手元のリモコンで操作可能なマイクを隠し持っていたのだ。
　あの時、五十嵐の声はリアルタイムで民間に発信された。
　政府の立場は、益々以って危うくなるだろう。
　天吏は政府に、治安維持の為の権限の一部を『平和への翼』に委託するよう、かけ合うつもりなのだ。
（なんとしても、正式に取り付けてみせるわ。金と権力が、いくら転がり込むのかしら）
　うふふと笑んで、天吏は今宵も、真っ赤なハイヒールを高らかに鳴らす。

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