かくて世界は浮遊する｜リアクション

かくて世界は浮遊する

　ガクン。

　「な！？」
　「きゃあ！」
　「うわっ」
　「ちょ……」
　「えっ！」

　にゃかいぷを含めて各地から悲鳴が上がる。その場にいたエヴァ、真央も数メートル下に高度が落ちていた。鯰だけは高度が変わらない。

　（どうや？）
　大鯰が目を開ける。

　「九夜山の高度がわずかに低下したことを確認した。単純な封印では墜落は免れない。また、これだけの質量を持った物体が落下すれば……」
　寝子島にも被害が及ぶ、とまでは続けない修。
　「で、できれば起きたままゆっくり高度を落として欲しいのだー！」
　真央が皆の気持ちを代弁する。
　（それができたらやっとるがな）
　と、大鯰は困った風に答える。
　「もしもの時は僕の力でみんなを守ってあげるよ！　とはいっても範囲は限られてるけどね……」
　米太郎が自身のろっこんを説明しながら悲壮な声を上げる。彼の重力操作では九夜山全域をカバーはできない。また時間制限もある。
　「その範囲の外が落下した場合どうなる？」
　士が訊ねる。
　「空気抵抗や物体の硬度などの差もあるが、何よりも質量と落下高度がありすぎる。小型の爆弾並みにはなるのではないか？」
　修が冷静に分析する。
　「……」
　沈黙が場を支配する。
　「以前、封印されたときは浮いておらんかったのか？」
　薫子がふと気づく。
　（おー、確か浮いとったのー。あのときはもっと長い時間浮いとった気がするの）
　大鯰が思い出すように答える。
　「もしかして、要石を載せたらゆっくり落下する効果があるとかー？」
　未だに何処を飛び回っているのか不明な環が突拍子もない案を提示する。
　「確か、『九夜山』の伝承は９日の夜を経て落下した、だったな」
　と、鋭二が伝承を口にする。

　（つまり、ワイの頭に石のせたらええってことか）
　大鯰も理解する。

　「で、岩は持ってこれるの？」
　圭花が辛辣に訊ねる。要石を動かすか、大鯰に移動してもらわなければ九夜山の事件は終わらないのだ。
　「見えてきたのだー！」
　真央が両手を挙げる。視線の先には要石と多くの生徒。まるで神輿を運ぶかのような光景であった。

　薫子が『お取り寄せ』で要石を移動させる。彼女が連続使用による疲弊して休んでいる間は、士の『天の救い』による突風と、あすかの『ソリッドボイス』による衝撃で岩を動かす。暦は『ラウンドシールド』による体当たりを敢行し、それ以外のメンバーは力で押すという強引な手段であった。
　多くの生徒が汗だくで疲れ果て、なんとか大鯰の頭上に要石が到着する。

　「後はのっけるだけだねー」
　と、優が鯰の上に誘導する。
　「最後に名前を聞かせてもらってもいいかな？」
　天野が大鯰に円、星、多角形、文字などを複雑に組み合わせた魔法陣を描き、『裏切りテリトリー』を発動させる。『浮遊した』大鯰はゆっくりと地面に『沈殿する』ように落下し、半分ほど土に沈んだところで天野はろっこんを解除する。
　（ワイはピエールや。最後とか言うなや、そのうちまた起きてきてもええか？）
　ピエールと名乗った鯰はどこか寂しそうでもあった。
　「がおー、微調整なのだー！」
　最後は真央がろっこんで召還した三毛猫の猫パンチで要石は大鯰の頭に優しく載せられる。

　「できれば起きたついでに浮遊してほしくないんだけどな」
　と、人に戻ったラッセルが苦笑する。

　（そんときはまたがんばればええ。んじゃ、おやすみ）

　大鯰ことピエールは地中へと沈み、その上には要石があるだけになった。

　ゴゴゴゴゴゴゴゴ

　世界は、沈む。

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