ブラック・ブラックの夜｜リアクション

ブラック・ブラックの夜

◆AM8:52　色眼鏡を外して
　市立寝子島高等学校、校門前。
　数人の男女が緩く輪を作って、会話をしている。
「……と、そんなところなんだが」
　会話の中心にいた桜井ラッセルと御剣刀が、お互いに視線を交えた。
　話題は、桜井と御剣が以前に対峙したカラス――『クローネ』について。

　一つ、クローネは、恐らく各人が持つ『ろっこん』を暴走させる力を持っている。
　二つ、暴走させられる時にはクローネの『羽根』が関係している――かもしれない。
　三つ、今回の事件にも、クローネが絡んでいる可能性がある。

「……つまりは、そのクローネとかいうカラスが何か悪いヤローなんだな？」
　壁に背中を預け、腕を組みながらそれを聞いていた空里花・Ｊ・見条が拳を握り締める。
　指の合間からギチリ、と不穏な音が鳴った。太陽の光を受けて青く光る双眸が、敵を想定して空を睨む。
「まー、もし関係あるにしてもないにしてもさ、まずこの状況を作ってるヤツを抑えるのが先かなーとか、んね！」
　既に黒く染められたコンクリートの地面を軽く握った拳でノックして、新井米太郎が明るく笑う。
　上下赤のジャージに合わたのか、口元を赤いバンダナで覆っているので表情は分からないが、目元と声の雰囲気で感情は汲み取れる。
「そこの赤ジャージの言う通り、まずは犯人を抑えることに専念するべきだが……クローネの事も気にしておいたほうがいいだろう。いつのまにか『ろっこんを暴走させられてました』なんて状況は、避けたいからな」
　御剣の横から如月庚が、空里花と同じように空を見上げる。
「ノー赤ジャージ！　アイアム、あらこめレッド！」
「……で、一つだけ聞かせて欲しいんだが」如月は新井の反論を聞いているのか聞いていないのか、会話の輪から僅かに離れた場所へ視線を向けた。「……あんた、犯人じゃないよな」
　その場にいた一同が、一斉にそちらへ顔を向ける。
　ツバの広い帽子に、マントを翻し、顔には仮面を装着。各所にディテールの深いボタンやアクセサリーを身に着けているものの、基本色は黒。
　仮に『寝子島で見かけた怪しいヤツランキング』を調査したら上位に食い込みそうな男は、手にしたスティックを回して、不敵に微笑んだ。
「闇夜に溶けるは怪盗の宿命……時にこの身を黒く染めることもあるが、ここまでの悪趣味な『黒』が俺の仕業だと思われるのは、いい気がしないな」
　その場の注目を集めに集めた黒衣の男は、マントを翻した。
　しかしおそらく、特に意味は無い。
「怪盗ケットシーの名にかけて誓おう……これは、俺の仕業ではない」
　人差指と中指をセットで立て、目元で軽く振りながらシグレ・ナイトウォーカー、またの名を――怪盗ケットシーは微笑んだ。
「……なーんかどっちにしてもアヤシイよな、見た目」新井がシグレを半眼で見る。「縛っとく？」
「見た目で人を判断するのはやめるんだ！　というか怪しさならいい勝負だろう！」
　ビシィっと効果音でも鳴りそうな勢いでシグレが新井を指差す。
「話は終わりか？　……それなら俺は、もう行かせてもらうぞ」
　黙って話を聞いていたコートの男――草薙龍八は、ポケットに手を入れて、返事も待たず、その場を離れた。
　――しかし、それよりも目を引くのは、その背後を追う者の姿。
　自動販売機よりも、やや大きな身長。筋肉の起伏のハッキリした体躯。癖の強い髪の毛を撫で付けた男――尾鎌蛇那伊が、なぜかブーメランパンツのみを着用した状態で草薙の後を追ったのだ。「また後で会いましょう」と微笑んで手を振るのも忘れない気さくなキャラクターと外見のギャップ。
　この後、二人に何が起きるのかを想像したメンバーは、一様に首を振って脳内の映像を消去した。
「確かにあまりゆっくりもしていられない……何かわかったら『ねこったー』に書き込む。ここは一度、解散しておこう」
　御剣のその発言に、皆が軽く頷き、その場を離れた。

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