【星幽塔】第十一階層　極圏のハレーション｜リアクション

【星幽塔】第十一階層　極圏のハレーション

「深入りしすぎだ！」
　ワイバーンをやり過ごしつつ、武道に声をかけるグレッグ。
（あと……）
（あと、もう少しで……）
　焦る武道。

　その背後に、ふいに触手が生まれた。
　先端には、鋭いかぎつめ。
　ついに竜は、自らのからだを傷つけること覚悟で武道を排除することを決めた。
　はっと振り返る武道、光る先端が自らを狙うのを感じる。
　慌てて体を反らすが、逃げ切れない。
　服の裂け目から、血しぶきが散る。

（あッ……！）
　声にならない悲鳴をペルラが漏らす。
　一瞬、遅れた。
　回避に気を取られ、正確な位置取りを見誤った。
　刻々と変化する状況、対応するのは至難の輪。
　だが、鉤爪の餌食にならんとする武道を目の当たりにして、激しい自責の念が襲う。
（私が）
（私が、もうすこし早く動いていれば）
　庇いきれない。
　彼が弾き飛ばされ、列車から墜落する最悪の光景が頭をよぎる。
　――が、凄惨なその光景がペルラの眼前で繰り広げられようとした瞬間！
　飛来する一つの影があった。

　天馬駆ける悠月。
　――ダメかっ！
　弾丸のごとき勢いで迫れど、相手の攻撃はさらに早い。
　――間に合わない！
　それでもろっこんを展開。慣れ親しんだ聖句の、その一節。
　悠月の周りに築かれる防御壁。だが遠い。武道の肉体を覆うには及ばない。

（ダメだっ……！！）
（距離が、ありすぎる……！！）

　どうにもできない。
　自分の力では、彼を守ることはできない。
　視界の端に、立ちすくむペルラの姿を認める悠月。
　自分の無力を苛んでいる。

　自分が、自分が何とかしなければ。

（それでも――）
（それでも、守りたいッ――！！）

　悲痛な願いが、祈りとなって一段高く響き渡る。
　天使の歌声ともまがう清純な祈りが、歌声となって天を突く。

　――。

　その瞬間、新たな主旋律が吹き込まれたように、不意に新たな力が力が悠月の身内に湧き上がってきた。
　鉤爪が武道の手前で、ガチンと弾かれる。
　唖然とする武道、その周りには悠月と同じ障壁。

　茫然とする悠月。

　それと同時に、自分の中に大きな力が湧き上がってくるのを感じる。

（ろっこんが、進化したのか……）

　今までのろっこんが独唱、独奏なら、こちらは合唱であり、交響曲。
　悠月の力が触媒となり、周りの皆が防御壁を形成することができる。

　間一髪、武道を拾い上げるグレッグ。

（この力があるなら……）
　悠月の頭を、作戦前に聞いていた情報が駆け巡る。
「彼ら」の手助けを得られれば、あるいは……。
「すまない、後は任せる！」
　言うなり悠月は天馬に飛び乗り、彼方に向けて飛翔を開始する。

　針葉樹林帯において、一同は思った以上の戦果を得ることができた。
　万全とまではいかぬとも、武道の麻痺の力は、トレインの力を全体的に減殺することができた。
　メリィ、刀、ヴェルトの前面への攻撃も大きい。効果的な一撃となり、大きなダメージとなった。
　なにより、防御と回復が手厚く、ここに至るまで誰一人脱落していない。