【星幽塔】第十一階層　極圏のハレーション｜リアクション

【星幽塔】第十一階層　極圏のハレーション

　――来たみたいだな。
　志波武道が顔を上げる。
　樹氷が陽を透かしてきらめく。

　とりあえず合流したメリィらと協力して、バリケードらしきものは組み上げてみた。
　とはいっても、丸太を積み上げた程度のもの。効果はさほど期待できない。

（少しでも減速できれば……）

「ドーモ！」と感謝する武道に、肉球を振って見せるメリィ。
　そのまま木々の梢に姿を消す。
「上出来じゃねえか！」
　上空から声を掛けるのはグレッグ。
　先般、戦略を立てていたように、武道をワイバーンに載せた。
　そのまま急速に上昇。
「……んで、乗ったはいいけどよ、お前さん、これからどうする気だ」
「ウーン、あのドラゴンの……」
　今まさに、林に差し掛かろうとする龍を指さし、
「背中に乗ろうかなァ、って思ってる」
「なるほど！」
　快闊にうなずき、

「……って、あのドラゴンの背に乗るだと？」

　瞬時に顔色を変えた。
「何だその、上空からのダイレクトアターックは」
「お願い！」
　両手を合わせて拝む武道に、あきれ顔を向けるグレッグ。
　何となく、そんな予感はしていたのだ。
　兄にして、ただの善人というわけではない、何か大胆なことをしでかしそうな雰囲気があった。
　人を観察する目には自信がある。
　弟である武道も、とんでもない策を提案するに決まっているのだ。
「止めやしねえ！」ドラゴンの背めがけて、ランドルを操作する。
「存分にやれ！」

「始まっているようだな」
　上空の様子を確認しつつ、万事屋ヴェルトは、メーベルと最後の確認に余念がない。
「妙な形をしているが、よく見れば旧式の列車……と見えなくもない」　
　はめた手袋の感触を確かめて、ヴェルトは顔を上げる。
「後続のためにも時間を稼ぎたいものだ――君、騎士の光を持っていたね」
　声を掛けられ、装備の最終確認をしていたメーベルが顔を上げる。
「先生……やる気があるのはよろしいのですが――あまりご無理をなさらないでいただきますよう……」
　口うるさい説教に、いつものように手を振ってこたえるヴェルト。
　気まぐれな彼の主人、めずらしくやる気に満ちているが、こういう時こそ危ないものだ。
　慎重なメーベル。ましてヴェルトの身に何かあれば一大事。
　手袋を外して星の力を照射。優美なシルバーのモービルが現れる。
「乗せたまえ。操縦は任せる」
　悠然と飛び乗るヴェルト、ヘルメットを手渡し、自分も装備するメーベル。
「振り落さないでくれよ？」
「ええ、言われずとも」
　軽口に応え、イグニッションキーに力を籠める。
　極寒の雪原で、機械の獣が息吹を吐き出した。

　一同の戦略を聞き、ヴェルトは自らの方針を決めた。
　基本的には荒事向きではない。力でねじ伏せたり、大技を繰り出したりというのは仲間に任せた方がよさそうだ。
　任務の遂行のため、最良の手を打つ。それが彼らの矜持。
「要するに、足止めだね……まあ別に、倒してしまっても構わぬのだろう？」
　不敵に言い放つ。
「敵の姿が見えたぞ。メーベル、もっと詰めて。木々の間を縫っていけるか」
「木々の間を……ですか。振り落されないようにお気を付けください」
　メーベルはぐっとアクセルを踏み込んで、精妙極まりない運転で木々を越えていく。