天界で新年会！｜リアクション

天界で新年会！

【主さまの楽しみ】

　御剣刀と新田亮は、料理の配膳に加えて、神さまたちにお酒や料理の好みも聞いて回ることにしました。
「あっちのライオン頭の神さまは、肉料理に合うワインが欲しいそうだ。あそこの蛇神さまは、卵料理が好み。あっちの神さまが口が３つあるから、とにかく量を用意して欲しいそうだ……それから、あそこの皿に盛られてるスペアリブは超美味そうだから、要チェックだ」
「何を調べてるんだよ、御剣……あっちの狐と狸の神は、とにかく強い酒をと言っていた。あのバカでかい山神は酒も好きだが、団子が食べたいそうだ。後で持って行ってもらおう」
　料理を運んではそうして神さまたちへ話しかけ、食べ物飲み物の希望を把握して、再びキッチンへ。往復すること数回……けれど、まだ回ることができたのは、ほんの３分の１といったところでしょうか。なかなかに骨が折れるお仕事ではありますけれど、これも貴重な経験とばかり、ふたりはいまだ意気軒昂です。
「よし。いったんキッチンのほうへ伝えに行くか」
「そうだな……ん？」
　ふと見ると、そこではナマズの神さまが、長大な身体を持つ竜の神さまへ挨拶をしているところです。
「いやぁ主どの、ぶち久しぶりじゃのう！　元気そうじゃけえ安心したわい」
「そちらもな、鯰どの。天界はどうだね？　近頃は何やら、賑やかになったようだね」
「ああ、そりゃあ……お、えーとこ来たの。おうい！」
　不意に呼ばれて、刀と亮はナマズの神さまの元へ。
「この竜神さんはのう、お前さんらの住んどる寝子島の、天宵川っちゅう川のヌシさんなんじゃ！　主どの、こんならぁ寝子島の子らでの」
「おお、そうかね。そうかね」
「……ど、どうも」
「いつもお世話になってます……？」
　竜の神さまは、長い首を伸ばして大きな杯になみなみと注がれたお酒をぐびり、喉を鳴らして美味しそうに飲み、刀と亮を穏やかな瞳で見つめます。巨体をこんな風に近くで見上げると、何とも大迫力です。
「ほうじゃ、寝子島っちゅうと、ののこちゃんが落っこちたとこじゃあないか。あの子は元気にやっとるんか？」
「元気だとも、元気すぎるくらいだ。ついこの前もな、川の側ではしゃいでいて、あわや水の中へ落ちそうに……」
　なんて、他愛のない雑談ではありながら、興味を惹かれた刀がなんとなく耳を傾けつつ、竜神さまのための料理を並べていたら、
「ぴ、ぴぎゃああああああ！？　止めて止めて止めて、誰か止めてなのーーー！？」
「……橘！？　あいつ、何をやって……」
　しゅごーーー！　っとローラースケートで疾走する橘明里がこちらへ向かって、大暴走！　亮が慌てて、
「あ、あぶなーいっ！！」
「わっぷ！？」
　ぼすん！　制御不能になってしまったローラースケートウェイトレス明里を、ナイスキャッチ！　と言いつつ、どこかの神さまやら桜の木やらと正面衝突してしまわなかったのは、ホールスタッフとしてのアルバイト経験のたまもの……でしょうか？　たぶん。
「あ、ありがとなのーにーにーくん！　助かったなの～……」
「というか、飛べばいいじゃないか……せっかく羽があるんだから」
「……あっ」
　亮にツッコまれて、あかりはぺろりっと舌を出して、ちひひー♪
「また失敗しちゃったなのー」
「ふ……くくく。ははははは！」
　途端。ナマズさんともども、きょとんと成り行きを見守っていた竜神さまが、楽しそうに笑い声を上げました。
「おお、ケガぁせんで良かったのー！　いやぁ、すまんのう主どの、この子らぁ臨時のお手伝いじゃけぇ。許してつかーさいや」
「かまわん、かまわん！　子どもらの元気な姿を眺めるのが、いつの時代も、私の楽しみでね。おかげで今日もこうして、美味い酒が飲める」
　ぐびり、ぐびり。はふぅ、と満足げな息を吐いた、懐の広い竜神さまへ。刀はどこか穏やかな気分で、
「……何か、食べたいものとかありますか？　俺、持ってきますから」
「うむ。感謝する、寝子島の子よ」
　何はともあれ、お楽しみいただけているようです。