【あけまして！】

　配膳係たちがさっそく各所へ散っていった一方、こちらは加速度的に慌ただしさを増していく、屋外に設けられたキッチンです。
「相変わらず、ここは忙しいですね……」
　さっそく包丁を手にした鴻上 彰尋は、苦笑いしつつ、
「本当は、野々さんのお母さんたちにも、ゆっくりしていてもらいたいんですが」
「ふふふっ、お気遣いありがとう♪　でもわたし、お料理好きなのよ～。だから大丈夫っ」
　ののこママはやっぱり明るくて、楽しそうです。彼女や天界の住人たちも神さまには違いなく、おもてなしをされるべき側だという彰尋の言葉にも、笑って首を振りました。
「あ、でも。後で、来てくれた神さまたちにもご挨拶してきたいから、その時はお願いするわね～？」
「ええ、もちろん……」
「あらあら、何だか大変そうねぇ？」
　ふらりとやってきたのは、天界は初体験、志筑 かりん。初めてにも関わらず、のんびりゆったりとした佇まいは、どこかののこママと近しい部分もあったかもしれません。おまけにかりんも、料理ならお手のもの！
「私、喫茶店をやっているから、洋食系の簡単なものなら作れますよ。ナポリタンとか、オムライスとか……良かったら、お手伝いしましょうか？」
「あら、助かるわ～！　よろしくねっ♪」
　彰尋、ママと並んで、かりんもキッチンへと立ち、さっそく腕を振るい始めます。
　ミートソースを作り始めたかりんの横で、ののこママと彰尋が作っているのは色とりどり、何ともゴージャスなおせち料理でしたけれど、
「おせちもいいけど、カレーもだよね！」
　張り切る鬼河内 萌が作るのは、やっぱりカレー！　究極のカレーを求める会に名を連ねる彼女のこと、天界に来ても羽が生えても、
「ボクの天界カレーで、神さまをおもてなししちゃうゾ☆」
　萌は、ブレません！
　そのお隣、本日は振袖姿も美しい綾辻 綾花は、ほんのり夢心地。
「ああ……可愛いにゃんこがいっぱいで、幸せです♪」
　一生懸命に働くねこたちを眺めて、うっとり……天界は猫好きにとって、何とも至福の空間であるようです。
　といってもちろん、お仕事に手を抜いてしまうつもりもなくて、
「ののこちゃんのママさんも、ねこちゃんたちも、お久しぶりです。今日は一緒に、がんばりましょうね」
「「「はいニャ～～～！」」」
「ええ、よろしくね！」
　ずん、ずずん、と大きな音。みんなが一斉に振り返ると、そこにはふたつの大きな、お鍋がありました。運んできたのは、椿 美咲紀に八神 修です。
「ふーっ！　さあ、作りますよ～シュー君！」
「ああ、サポートは任せてくれ。それにしても美咲紀、野菜以外も調理できたんだな」
「ふふーん、これでも大鍋料理は得意なのですよー♪」
　手の込んだ繊細なお料理ももちろん美味しいですけれど、お客さまはとにかく大人数でありまして、どかーん！　と大胆な鍋料理だって、嬉しくて大助かりなのです。
　あちこちで、包丁とんとん、湯気がもくもく。あたりに漂う、なんとも良い香り！



「ほんなら、ワシらで神さんたちのお相手するけえ、よろしゅう頼むどー！」
　宴会大好き、ナマズの神さまですけれど、今回はお客さまの元へ出向いてお酌をしたり、挨拶回りをするそうです。天界でも随一の顔の広さを持つ彼は、外の世界での交友関係も幅広いのだとか。
　そんな彼と一緒に、神さまたちのお相手をするのは、千歳飴 楓子、如月 蘇芳、羽生 碧南、澪乃 湊弥、大天使 天吏の５人です。
「天界か。訪れるのは初めてだな」
　なんて言いつつも、楓子はいつものごとく、肝が据わっております。
「ふふふ……華やかで、楽しげだな。楓子も一緒に楽しませてもらおうかな」
「ふぅん。それで、お酌をするのが俺たちの役目かな」
　蘇芳は、にやーり。あえて表現するなら、面白い遊び場を見つけた、といったところでしょうか？
「それだけじゃ……ふふ。ちょっとつまらないよね？」
　ひとりの神さまを見定めると、彼はさっそく、軽い足取りで歩み寄っていきました。
「神さまかぁ……これだけたくさんいたら、何だかご利益がありそうね」
「あはは、確かにね」
　猫の神さま竜の神さま、狸に狐に……奇妙な神さままで、多種多様な神さまが一堂に会するこの光景は、圧巻です。碧南が思わずそんなことを言い、湊弥が笑ってしまったのも、無理はないというものです。
「天国って、本当にあったんだなぁ。神さまにお酌なんて初めてだけど、ま、何とかなるっしょ。俺たちもがんばろうか」
「ええ、こんな経験、めったにないものね」
　と、前向きに、さっそく動き始めた彼らをよそに。
（九夜山の、主さま？　ここに……いらっしゃるの？）
　先ほど向こうで、ねこたちがそんな風に呼んでいるのを、天吏はちらりと聞いていました。
　普段から山歩きをしている彼女には、九夜山は庭のようなものかもしれません。けれどそんな自負も、神さまの前では、なんとちっぽけに思えることでしょう。
　どんな神なのか。どんな姿をしているのか。
「上下……右左？　何だか変わった名前だなー」
「左右ですわ、さ・ゆ・うっ」
「そっか、そんじゃー、ここで会ったのも何かのエンってヤツだぜ！　飲もうぜー左右、宴会だー！」
「ええ、お付き合いいたしますわ、酒浸先輩♪」
　早くも酒盛り……というかろっこんで陽気に酔っ払い始めている酒浸 朱蘭と上下 左右を、天吏はちらりと眺めて、
（……ふふ。また、天界に来られるだなんて）
　今日は何だか、穏やかな気分。人間も、神さまも、ねこも天使も、いっしょくた……なーんて状況を、素直に楽しもう！
　何故だか今日は、そんな風に思えました。



　やがて青空へと響く、底抜けに明るい声。
「「「あけまして、おめでとうございま～～～っす！！」」」