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降る雨
「待たんかい！ 吾輩のバイト先を無茶苦茶にしおって許さぬぞ！ 吾輩は一年１０組の長、上岡である！」
怒鳴り込まんばかりの勢いなのは、上岡 恵郎くん。苦学生。
お顔が荒ぶる阿修羅像。
学費を稼ぐために、日夜教会に訪れる人々の懺悔を聞くバイトをしている。
その実、神の存在など信じてはいないが。
世の中はキャッシュです。
いいじゃないか、日本人女性に一番モテる男は、諭吉さんだって公言する人だっているのだし。
「ちょっと、恵郎くん！ まずは説得をする手はずだったはずでしょう」
ライブ配信中のスマホを、男に見つからぬよう隠し持ち、焔が小声でたしなめる。
焔、恵郎、戸口で合流した教会の息子・綾人、そして遠巻きに様子を伺う巨漢――彼も、教会関係者ゆえに、焔からの連絡を部下が運転する高級車の後部座席に身を沈めながら受け取った。
「コホン……失礼しました。バイトの上岡です」
恵郎の顔、バイト時の牧師様にミラクルチェンジ。
お顔立ちは、やはりどちらかと言うと、後光が差して見える系のそれだが。
説得を目的としたメンバーが、そろりと前に進み出るが、男がふわりの拘束をきつくしたので、止まらざるを得なかった。
「……汝は神を信じますか？ お名前は知りませんが神様がお見えになってますよ？ これも仕事ですので貴方のお話聞かせてくれませんか？」
恵郎はめげずに呼びかける。
「神様ァ？ 来てるっていうんなら、ここに出してみろよ！」
吐いて捨てるように、男は怒鳴り続ける。
「うちのお袋も、俺が失業してからというもの。毎日毎日、神様ってやつを熱心に拝んでやがったが。神様は何もしてくれねえじゃねぇか！」
「やれやれ。酒は呑むものであり、呑まれるものではありませんよ？ 僕は未成年ですが文化的理由で、合法的にワインを嗜んでいましてね……気持ちは分かりますよ？ ここは教会ですしどこかに主の血であるワインがあるはず。一緒に飲みませんか？」
「アウトォ！！」
優華の肘鉄が、恵郎のみぞおちに炸裂した。
「ぐほぉ！」
「ここは日本よ！ 未成年の飲酒喫煙は禁止よ！！」
風紀委員、獅子尾 優華。
説得班の守護を名乗り出た、勇気と献身の少女である。
「学生らしく、ニャンタグレープでも飲んでなさい！」
腰に手を当て凛と立ち、道を踏み外そうとする少年を見下ろす、その熱くて冷たい瞳。プライスレス。
海外生活の経験がある恵郎は、女性には手を上げない。
恵郎の敗北の歴史が、今ここに刻まれた。
ちなみに自由の国アメリカでは、21歳にならないとお酒は飲めません。
円と海が悶絶している恵郎を引きずって、安全圏へ連れ出した。
「学友が騒がせて申し訳ない。まずは落ち着いてもらえないだろうか？ 俺は、あなたの話をまず聞きたい」
気を取り直して、下月 ヴィナが男に話しかける。
誠実なヴィナの風貌は、まるで新緑を吹きぬけていく風を連想させる。
繊細そうな金の髪も、立ち居振る舞いの上品さも、さながら育ちの良い王子である。
もっとも本人は、そんな自分の外見を、チャラいと評しているようだが。
「俺の話？」
先ほどまで、興奮で歯を剥き出していた男が鼻白む。
ヴィナのろっこん『こころのいやし』が、その効果を発揮しているのだ。
名の通り、ヴィナの力は人の緊張を解きほぐす。
「残念ながら、未成年だからお酒は用意出来ないけれど。それ以外に、何か望みはあるだろうか？ 俺達はあなたと事を構えたいとは考えていないんだ」
男は黙って、じっとヴィナを見ている。
男の手元には、もれいびであるとは言え、守るべき対象ふわりがいる。
だからヴィナの『こころのいやし』は、効果が高いのだ。
神を信じない『ひと』の恵郎が退場したのも、ちょっとプラスに働いている。
男がそちらに注意を向けているのを見計らい、逆巻 天野は説得するメンバーで出来た人垣を目隠しに、その足元にチョークで白く魔方陣を描いていく。
『裏切りテリトリー』。
太極図を中心とした複雑なサークルは、どんなに面倒でも、略式では効果を発揮しない。
浮世離れした美貌を持つ天野の、男性とも女性ともつかない横顔は、真剣そのものだ。
だから。
ほんの一寸。その柔らかな髪を揺らして、一匹の蝶が寄り添った事にも、全く気づかなかった。
天野のヘッドフォンを、黒い小さな影が映りこんでひらひらと横切り。
復活祭の準備のために一時的に脇に固めて置かれていたオーナメントで、男の死角になった場所に舞い降りると、長いお下げ髪と大きな目が印象的な少女に姿を変える。
いや、少女がろっこん『胡蝶の夢』で蝶に姿を変えていたのだ。
彼女は屋敷野 梢。
偶然、天野を見かけ、その物憂げな面持ちが気になって、こっそり後をつけてきたのだ。
今、梢とは離れた場所で、自分以外の誰かを守るために、心を砕く彼のために。
私がした事に、気づいてくれなくてもいい。
彼の助けになりたい。
そっと手を伸ばし、梢は裏口のロックを外した。
自分の心についた嘘の味の苦さに、ちくりと痛む胸を持て余しながら。
怒鳴り込まんばかりの勢いなのは、上岡 恵郎くん。苦学生。
お顔が荒ぶる阿修羅像。
学費を稼ぐために、日夜教会に訪れる人々の懺悔を聞くバイトをしている。
その実、神の存在など信じてはいないが。
世の中はキャッシュです。
いいじゃないか、日本人女性に一番モテる男は、諭吉さんだって公言する人だっているのだし。
「ちょっと、恵郎くん！ まずは説得をする手はずだったはずでしょう」
ライブ配信中のスマホを、男に見つからぬよう隠し持ち、焔が小声でたしなめる。
焔、恵郎、戸口で合流した教会の息子・綾人、そして遠巻きに様子を伺う巨漢――彼も、教会関係者ゆえに、焔からの連絡を部下が運転する高級車の後部座席に身を沈めながら受け取った。
「コホン……失礼しました。バイトの上岡です」
恵郎の顔、バイト時の牧師様にミラクルチェンジ。
お顔立ちは、やはりどちらかと言うと、後光が差して見える系のそれだが。
説得を目的としたメンバーが、そろりと前に進み出るが、男がふわりの拘束をきつくしたので、止まらざるを得なかった。
「……汝は神を信じますか？ お名前は知りませんが神様がお見えになってますよ？ これも仕事ですので貴方のお話聞かせてくれませんか？」
恵郎はめげずに呼びかける。
「神様ァ？ 来てるっていうんなら、ここに出してみろよ！」
吐いて捨てるように、男は怒鳴り続ける。
「うちのお袋も、俺が失業してからというもの。毎日毎日、神様ってやつを熱心に拝んでやがったが。神様は何もしてくれねえじゃねぇか！」
「やれやれ。酒は呑むものであり、呑まれるものではありませんよ？ 僕は未成年ですが文化的理由で、合法的にワインを嗜んでいましてね……気持ちは分かりますよ？ ここは教会ですしどこかに主の血であるワインがあるはず。一緒に飲みませんか？」
「アウトォ！！」
優華の肘鉄が、恵郎のみぞおちに炸裂した。
「ぐほぉ！」
「ここは日本よ！ 未成年の飲酒喫煙は禁止よ！！」
風紀委員、獅子尾 優華。
説得班の守護を名乗り出た、勇気と献身の少女である。
「学生らしく、ニャンタグレープでも飲んでなさい！」
腰に手を当て凛と立ち、道を踏み外そうとする少年を見下ろす、その熱くて冷たい瞳。プライスレス。
海外生活の経験がある恵郎は、女性には手を上げない。
恵郎の敗北の歴史が、今ここに刻まれた。
ちなみに自由の国アメリカでは、21歳にならないとお酒は飲めません。
円と海が悶絶している恵郎を引きずって、安全圏へ連れ出した。
「学友が騒がせて申し訳ない。まずは落ち着いてもらえないだろうか？ 俺は、あなたの話をまず聞きたい」
気を取り直して、下月 ヴィナが男に話しかける。
誠実なヴィナの風貌は、まるで新緑を吹きぬけていく風を連想させる。
繊細そうな金の髪も、立ち居振る舞いの上品さも、さながら育ちの良い王子である。
もっとも本人は、そんな自分の外見を、チャラいと評しているようだが。
「俺の話？」
先ほどまで、興奮で歯を剥き出していた男が鼻白む。
ヴィナのろっこん『こころのいやし』が、その効果を発揮しているのだ。
名の通り、ヴィナの力は人の緊張を解きほぐす。
「残念ながら、未成年だからお酒は用意出来ないけれど。それ以外に、何か望みはあるだろうか？ 俺達はあなたと事を構えたいとは考えていないんだ」
男は黙って、じっとヴィナを見ている。
男の手元には、もれいびであるとは言え、守るべき対象ふわりがいる。
だからヴィナの『こころのいやし』は、効果が高いのだ。
神を信じない『ひと』の恵郎が退場したのも、ちょっとプラスに働いている。
男がそちらに注意を向けているのを見計らい、逆巻 天野は説得するメンバーで出来た人垣を目隠しに、その足元にチョークで白く魔方陣を描いていく。
『裏切りテリトリー』。
太極図を中心とした複雑なサークルは、どんなに面倒でも、略式では効果を発揮しない。
浮世離れした美貌を持つ天野の、男性とも女性ともつかない横顔は、真剣そのものだ。
だから。
ほんの一寸。その柔らかな髪を揺らして、一匹の蝶が寄り添った事にも、全く気づかなかった。
天野のヘッドフォンを、黒い小さな影が映りこんでひらひらと横切り。
復活祭の準備のために一時的に脇に固めて置かれていたオーナメントで、男の死角になった場所に舞い降りると、長いお下げ髪と大きな目が印象的な少女に姿を変える。
いや、少女がろっこん『胡蝶の夢』で蝶に姿を変えていたのだ。
彼女は屋敷野 梢。
偶然、天野を見かけ、その物憂げな面持ちが気になって、こっそり後をつけてきたのだ。
今、梢とは離れた場所で、自分以外の誰かを守るために、心を砕く彼のために。
私がした事に、気づいてくれなくてもいい。
彼の助けになりたい。
そっと手を伸ばし、梢は裏口のロックを外した。
自分の心についた嘘の味の苦さに、ちくりと痛む胸を持て余しながら。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2012年12月03日
- 参加申し込みの期限
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- 2012年12月10日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2012年12月10日 11時00分
