●男
男は独身だった。
年老いた母と暮らすボロアパートは、一度改装されたが、また古くなった。
男は無職だった。
会社が傾き、職を失った。
狭い部屋に酒瓶が転がるようになった。
見かねたかつての同僚が、仕事を紹介してくれたが、気乗りしなかったので断った。
ある朝、母が倒れた。
3時間、男はそれを放置し、後悔した。
それまで母の年金で暮らしていたのに、それが望めなくなった事に気づいたから。
「おい」
声を掛けたのは、ホームレスだった。
男は小金を稼ぐため、熱心に駅のくず入れから雑誌を集めている最中だった。
親切、だったのだろう。
「取るな、とは言わないけど。気をつけな、この辺りはうるさいから。見つかったら、ひどい目に遭うぞ」
忠告をくれたホームレスの首から、吊り下がった携帯電話が揺れる。
薄汚れた格好に不釣合いなそれが、何を意味しているのか。察して引き下がり、やがて知った。
自分も周りから見れば、このホームレスと大差ない事を。
もう、どうでも良くなった。
夕刻。いつものように、電車がホームを離れる直前を狙う。
男は売店に並ぶ酒を数本、懐へ滑り込ませると、電車に飛び乗った。
ドアが閉まる一瞬、店員の、男を咎める叫びが耳をついた。
見つかったのだ。
心臓が跳ね上がる。
電車はホームを離れたが、男は乗客を押しのけて別の車両へ移動する。
息が熱い。
盗んだ酒を煽ると、一気にアルコールが体中を駆け巡り、胃が灼ける。
酒臭い息を長く吐き出した。
(どうして……どうしてこうなった!?)
力を込めて握りこんだ手の中で、手すりが曲がる。
男は、犯罪者だった。
●少女
ぽつり、ぽつり、雨粒が落ちてくる。
見上げた少女の白い顔の上にも。
透明な雫が浮いた携帯電話に、漫然と視線を戻す。
数件の着信と、『留守電あり』緑の点滅。
メッセージを再生すると、小さなため息の後、父の声で「今夜も遅くなるから先に寝なさい」と告げた。
少女の両親は、喧嘩ばかりしていた。
身体が弱い母を彼女はよく支え、手伝った。母の喜ぶ顔が見たかったから。
しかし仕事優先で家庭を顧みない夫に、妻は愛想を尽かし、数年前、少女の兄弟達を連れて家を出た。
「お父さんを、よろしくね」と少女に言い残して。
少女は一人だった。
●星ヶ丘教会
「ど、どうしよう……」
園部 流花のいつもは眠たそうな目が、今日ばかりは瞬いている。
彼は言う。
うちの学校の制服を着た女の子が、酔っ払いに連れ去られる現場を見たんだ、と。
「僕が二人を見たのは、星ヶ丘教会(地図c-8)。たまたま好みの猫についていったら、雨が降ってきたから、雨宿りしてたんだ」
でも……。
腕に引っ掛けられた猫用にしては大きな首輪についた鈴が、流花の動きに合わせて、ころんと涼しげな音を立てた。
「そこへ女の子を引き摺った、見知らぬ男がやって来た。その男は、俺がこうなったのは世の中のせいだから、神様に文句を言ってやるとか言ってたな。様子がおかしいから、隠れて覗きこんでいたら」
酔っ払い男に見つかった。
「自分は犯罪者だ、警察に言ったら女の子を殺すとわめいていた。あと、酒を持って来いってさ。僕はどうにか逃げられたけど、女の子は、相変わらず人質にされたままだ。助けないと」
ただの『ひと』であれば、なんだかんだで警察に通報すれば、後はどうにかしてくれるのだろうが。
男はもれいびだ、流花は確信していた。
「力が強くなるろっこんのようだよ。教会の正面玄関は、破壊されてしまった」
流花は、あなたにまっすぐに向き直る。
「あの子を助けるために、力を貸してくれるかい?」
メシータです。こちらはバトルシナリオとなります。
シリアス路線を想定していますが、皆様のアクションの方向性によってはコメディとなります。
お仲間さんとまとまった行動をされる場合は、アクション内でGA【グループ名】の表記をお願い致します。
何かアイテムを使う場合は、コンビニでいつでも買える物や、近所のおうちで借りるなど、容易に手に入る物ならばOKとします。
●場所
星ヶ丘教会。
星ヶ丘駅から北上した位置(地図c-8)にあります。
平日の夕刻のため、人目はありませんが、ろっこんを知らない『ひと』参加者さんが居る場合は、ろっこんの威力に影響を受ける可能性もあります。
男はすでに教会内部にいるため、照明により暗さは問題になりません。
●NPC
・男
不景気で職を失った、アルコール依存症の男。
もれいびです。タフなので、多少叩きのめしても、命に別状はないでしょう。
『とある条件』で、力が強くなります。
「俺がこうなったのは、神様のせいだ!」
・少女(飯田 幸)
寡黙で、目立たないタイプの女の子です。
両親が離婚し、父親と暮らしていましたが、一人でいるところを男に拉致されてしまいました。
寝子島高校1年生です。
彼女を見かけた事がある設定にして、声を掛けてくださっても構いません。
「…………(沈黙)」
以上、よろしければご参加くださいませ。