R&R Agency：File03：１９９９年からの使者２｜リアクション

R&R Agency：File03：１９９９年からの使者２

● 迷宮内部：ハヤブサの道

「よっと……あった」
　借りたアンカー、ザイルを比較的固い位置に打ち付け、ロープを伝ってハヤブサの道の底に下りた夜海霧楓は、横たわる黒装束の男の体を認め、唇を舐めた。先の戦闘で落ちた滅亡教徒だ。
　エヴァ・ブランシェ、御剣刀、ブリジット・アーチャーとともに戻ってきたハヤブサの道は、相変わらずの崩れかけの空中回廊と、ドーム状の部屋のある空間である。下層から直接コンソールルームに戻ると、四人はいったん回廊へ出た。敵がいないかの確認と、回廊から落ちた滅亡教徒の荷物を回収するためだった。
　ブリジットが＜スポットライト＞で照らしてくれているため、楓には底の状況がよく見えた。横たわる男の傍に降り立つと、その首元に手を当てる。息絶えている。
「悪い。俺もまだ死ぬわけにゃいかなくなったんでな」
　両手を合せ、傍に落ちていたナイフとレーザーガンを回収させてもらう。荷物の中にはエネルギーパックもあった。申し訳ないが、死体にはもう必要ないものだ。生きている者で使わせてもらおう。教典らしき本も出てくる。全く読めなかったがそれもポケットにしまい込む。
「これも頂くぜ」
　楓は荷物の底にへばりついていた干し肉を口の中に放り込んだ。美味くはなかったがこの状況だ。何があるかわからない。食える時に食えるものを食っておく方がいい。
　楓はロープを手繰ると、刀に引き上げの合図をする。
　死んだ男は残念だが連れてはいけない。こちらもそこまで余力はない。
　四人は無言で再度手を合わせた。それから、空間の中央に存在する、ドーム状の部屋――音声曰く『コンソールルーム』へと戻る途中で、弘明寺能美子から連絡が入った。

『ピラミッドストーンと、周囲の壁や床を調べているんだけど、なんとなく違和感なのよね』
「違和感というと？」
　エヴァが聞き返す。
『一言でいうと、ないの。痕跡が。昔の人が、ピラミッドストーンを引きずって運んだとしたら、壁や床に運び入れたときの摩擦のあとがあっても良さそうなものじゃない？　でもそういう形跡はないし……』
「ピラミッドストーンには触れてみた？」
『ええ。でも、驚くくらい人の想いが感じられない……』
　能美子のろっこん＜役立たずの逆さ時計＞には、物品に触れた際それを使用・利用していた人物の、その物品への思いがなんとなく分かる力が備わっている。そのろっこんをもってしても何もわからないとは。
　エヴァも簡単にピラミッドストーンの周りは調べてきた。中央の台座や壁に手を添わせながら移動したりして、操作パネルや隠し扉のようなものがないかを確認したが、そのときは見つけることができなかった。
『……どうすればいいのかしら。人生最大のピンチ、ってやつをまさか未来で迎えることになるなんて……』
　それを聞き、ブリジットはふむ、と名探偵モードになる。
「能美子の力でもわからないというのは逆にヒントだと思うのよ。だって不自然だもの。なんの痕跡もない殺人現場と同じくらいにね！」
『あ……古代人が何人も寄ってたかってピラミッドストーンを運び入れたわけじゃない、ってことかしら』
「もっと言えば、なんらかの仕掛けの存在を示唆してると思う。エヴァ、刀、楓。はやくコンソールルームとやらを調査しましょ。能美子にも視てほしいから来てくれる？」
『了解よ』
　通信を切ると、刀の＜加速＞の力を借りてハヤブサのレリーフが掛かる太い柱の前まで跳ぶ。
　レリーフに触れてエレベータを起動させる。
『――こちらはコンソールルーム直通です。まもなく扉が閉まります』
　古めかしい雰囲気の不思議な音声が、以前と同じように行き先を告げた。
　四人がエレベータに乗り込むと扉が閉まる。次の瞬間、光が柱を駆け抜ける。
　宙を横切り、ドーム状のコンソールルームへと。