R&R Agency：File03：１９９９年からの使者２｜リアクション

R&R Agency：File03：１９９９年からの使者２

● プロローグ

　――二月のシーサイドタウン。未来からの手紙を携え、再びＲ＆Ｒの事務所に現れた寝子暦１９９９年からの使者は、ユリウスという名の茶色いファラオハウンド犬であった。

「ユリウスだっけ？　ここまでご苦労様。今はゆっくりと休むといい、多分お願いする事が出来るから」
　桜月が首筋をなでてやると、賢いユリウスはその場にひざを折って待機の体勢をとる。
「さて」
　月はリンコ・ヘミングウェイと相談し、力になってくれそうな人に連絡することにした。
　月がまず連絡したのは如月庚率いるLeidenschaft。もれいびや異変について話がしやすいし、こういうとき頼りになるのは間違いない。すぐに、ねこったー経由で七緒璃音と連絡が取れる。
＜Leidenschaft面子が戻ってこない、と。……まー仕方がないですねぇここはおりおんさんがババッと助けにいかないと（棒）＞
　「助けに行く」の言葉が躊躇なく出てきたことに月は些か驚いた。
　なにより（棒）の文字に璃音の愛情を感じる。
　Leidenschaftの関係の深さに感じ入りつつ、月はＲ＆Ｒ事務所に来てほしい旨を伝える。
＜了解。準備してそっち行く。麺子用にカップ麺をいくつかと、スマホとモバイルバッテリー持ってくわ＞
　その後、事務所に駆けつけてくれた璃音が、Leidenschaftのメンバーであるロベルト・エメリヤノフの友人たちに連絡を取ったことで、来島アカリ、獅子目悠月、オルカ・ヴィヴァルディの三人もやってきた。
「ロベルト先輩と約束してたのに、急に来れなくなったって……やな予感がしてたんだ」
　アカリは心配そうに眉を顰める。
　ロベルトを迎えに。アカリはすでに、未来に行く決意が固まっているようだ。
　同じくロベルトの友人である悠月が冷静にリンコに尋ねた。
「未来に行ったメンバーのリストを見せて貰っても？」
「これよ」
　差し出された書類にすばやく目を通し、悠月はふむ、と唇を撫でる。
「ロベルトの他にも何人か知り合いがいるな。恵御納のろっこんはねこシールを使うんだったか。それも持って行ってやろう」
　青い瞳のオルカもまた、飄々とした様子で悠月の肩に腕を絡ませ、ハスキーボイスを響かせる。
「みんなが帰ってこなくなっても困るし俺も悠月と一緒に未来に行こうかな！」
「くっつくなって」
　そこに、おずおずとやってきた少女がいた。
「あのぅ。あやめちゃんが新しくバイトを始めたと聞いて……帰りが遅いので様子を見に来たんですけど」
　寝子高２年の添木牡丹である。複雑なため仔細は省くが、鬼崎あやめは牡丹にとって最愛の妹なのであった。リンコと月から未来行の話を聞いた牡丹は「アハッ」と哂った。
「ちょっと意味わかりませんし、ぶっちゃけ未来はどうでもいいですが……あの子が危険な目に遭ってるというなら、許しませんよ？」
　ぞっとするような笑みだった。その場にいた全員の肌が泡立つ。
「事情を聞いた以上私も同行します。だって私はあやめちゃんのお姉ちゃんなんです。ロベルト君とか知り合いも居るみたいですし……ね」

　こうして、ユリウスとともに未来へ向かうメンバーは五人となった。
　そのあとの１時間で悠月たちはねこシールを、牡丹は応急セットや携帯缶詰などの食料品を準備した。
　ふたたび事務所に集った五人は、未来へゆくための卵型の装置をひとつずつ手にとる。
　今度も現代に残ることにした月は、ユリウスに犬用のビーフジャーキーをあげながら話しかけた。
「未来に行ったらもう一度こっちに戻ってきて欲しいんだけど……今回の件は未来から見た過去、つまり私たちの時代に何かあるんじゃないかと思うんだ。調べてみたいから未来から私の考えに役立ちそうな情報を持って来てくれないかな？　未来の人が君を戻してくれるように手紙を入れておくね」
　ユリウスの首に下げた小さな樽に手紙を入れ、蓋をする。
　ユリウスは了解したと告げるようにクンと鳴いて月の掌を舐めた。
「じゃあ頼んだよ、皆も気を付けて」
　月は、ユリウスの頭を撫でて一歩離れた。
　璃音、アカリ、悠月、オルカ、牡丹が口々に告げる。
「おりおんさんに任せなさい！」
「きっと皆を連れて帰るね……」
「無事に帰れたら心配をかけた罰にロベルトに何処か連れていって貰おうぜ」
「Non ti preoccupare. 心配しないで～」
「では行ってきますね」

　彼らは未来行の装置を作動させた。
　まるでテレビの画面をスイッチで消したときのようなぷつりという音を立て、五人プラス一匹の姿が消えた。

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