1999年7の月、空から恐怖の大王が来るだろう――
世紀末を鮮やかに彩ったノストラダムスのこの予言の言葉を、覚えている人も少なくないだろう。
だが、世界は無事に世紀末を生き延びた。
あんなものはまやかしだった。
――果たしてそうだろうか。
【寝子暦1370年2月某日、寝子島シーサイドタウン】
「お~さぶっ」
吹きすさぶ空っ風に、
握 利平は上着の前を掻き合わせながら歩いていた。
目指すはシーサイドタウンはR&Rの事務所。これと言って用はないが、敢えて言えば面白い話でもないかな、というところだった。
まもなく事務所というところで、地面が揺れた。
「お、地震か? ……っと、結構大きくないか?」
あたりのビルの窓ガラスがビリビリ言うのが聞こえる。
だが、割れるまで行かずに揺れは収まり、ほっと胸を撫で下ろした次の瞬間、利平は、R&Rの事務所が入っているビルの前に、一人の男が倒れているのに気が付いた。
様子がおかしい。慌てて駆け寄り抱き起す。だが、気絶しているようだ。
「お、おい! おっさん、大丈夫か!?」
男は中東系の顔立ちで、髪は白く頬もコケていたが、肌の艶からするとまだ中年と言ってよかった。問題はその服装だ。白っぽいヨレヨレとした全身スーツに、煤けた底の厚いブーツ。とても寝子島の二月のフツウとは言えない。むしろ、SF漫画に出てくるような……、
「う……」
男は目を開け、日本語で言った。
「今、何年だ……?」
「何年って、……寝子暦1370年だけど」
利平は答える。すると、男は利平の瞳をまじまじと覗き込んで言った。
「するともしや君は……もれいびか?」
「そうだけど、おっさんは?」
「私は、アフマド。寝子暦1999年から来た時空歴史研究者だ……私は、君たちもれいびに、我々の世界を滅亡から救ってもらうために、未来から時空を超えてやってきたのだ……」
「な、なんだって……!?」
【同日、R&R事務所】
アフマドはすぐさまオカルト事件調査会社R&Rエージェンシーの事務所に運び込まれた。
彼の話を要約すると、寝子暦1999年、地球は、巨大な隕石が地球に近づくという未曾有の危機に瀕しているらしい。科学者たちの計算によると隕石は地中海付近に落ちると予想されており、もしそうなればイタリア、イギリス、リビア、トルコなど地中海沿岸の国々の大部分が消滅するという。また、衝突の衝撃で、地表は塵と水蒸気の雲で覆われるだろう。年単位での異変により、地上の生物のほとんどが死滅するかもしれない。
「私はこの時代に『もれいび』という能力者が集まる歴史的特異点があると知り、やってきた」
アフマド博士は床に頭を擦り付けるようにして嘆願する。
「頼む。私と一緒に寝子暦1999年に来てくれないか。人類を滅亡から救うために……!」
「と言われても、どうやって?」
と利平が尋ねる。
そりゃあ仲間たちはすごい。だが一方では、寝子島の一市民に過ぎない。
飛来する巨大隕石相手に何ができるだろう?
するとアフマドは言った。
「『ピラミッドエミッション計画』だ」
「ピラミッドエミッション計画?」
ピラミッドエミッション計画とは、エジプトの大ピラミッドに秘められていた古代高度文明の遺産を発動させ、想像を超えるエネルギーの放出で、飛来する隕石を打ち抜く計画だという。
「我々の研究によると、失われた大ピラミッドの頂上部分――
黄金のキャップストーンを見つけ、ピラミッドの頂上に戻せば、ピラミッドから想像を超える力が放出され、世界の滅亡を阻止できる可能性があることがわかった。だが、肝心のキャップストーンは、地下の巨大迷宮の奥にあって、今生き残っている我々の仲間では、その迷宮に歯が立たないのだ……」
アフマド博士はさらに詳しい状況などを語ったが、それは書面にまとめたので後程読んでいただきたい。
「面白い。私たちにうってつけの依頼ね」
R&Rエージェンシーの実質ボスである
坂内 梨香は、にやりとして言った。
「希望者を募るわ。報酬は未来を見る経験。プラス、帰還後、既定の金額を出しましょう。でもよく考えて。帰って来れる保証はない。それでも行きたいという人だけ、名乗り出て頂戴」
かのノストラダムスの予言はもしや、寝子暦1999年のことを指していたのだろうか……。
梨香を筆頭とした勇気ある者たちが、アフマド博士とともに寝子暦1999年の世界へと向かったのは、それから数時間後のことである。
こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
大変なことになりました。寝子暦1999年の未来の地球を救ってください!
◇アフマド・レポート
(以下の内容は、アフマド博士が語った内容を書き留めたものです。
すべてのPCさんはこのレポートの内容を知りえます)
【寝子暦1999年の状況について】
・パニックや天候不順で、紛争や疫病が蔓延している。
・地球滅亡を望む『地球滅亡教』が勢力を伸ばしている。
・宇宙開発は進んでおり、数万人規模ではあるが、月と火星への移住も進んでいる。
・現在研究者たちは、いくつかのコロニーを作って人類滅亡回避に向けての研究を行っている。
【アフマド博士の計画『ピラミッドエミッション』】
エジプトの大ピラミッドに隠された古代高度文明の遺産を発動させ、隕石を打ち抜き地球を守れ!
そのためには、失われた大ピラミッドの頂上部分『黄金のキャップストーン』を手に入れ、
大ピラミッドの頂上に据える必要がある。
【黄金のキャップストーンの在処と思われる場所『ヘロドトスの迷宮』】
大ピラミッドから数十キロ離れた場所にある、
歴史の父ヘロドトスが、著書『歴史』にピラミッドよりも素晴らしいと書き残した迷宮。
上下二層になっており、屋根のある中庭が十二、部屋は全部で三千ともいわれている。
これらの部屋や中庭は白い石でできた柱廊で結ばれ、複雑に入り組んでいる。
神々や王、巨大な動物や怪物の像が至る所にあり、荘厳らしい。
この迷宮は現代ではすでに存在しないと思われているが、
未来ではアフマドたちが地下に埋没している迷宮の入り口を発見した。
ただし、アフマドたちが到達しているのは上層の入り口付近のホールまで。
三方向への入り口があるが、奥までは行けていない。
<迷宮の困難>
1.広大で、複雑すぎる構造
アフマドは、上層入り口そばのホールから、三方向に分かれての探索を提案します。
下層へ行くためにはそれぞれの道の先にある仕掛けをすべて発動させなければいけません。
【ワニの道】
入り口にワニのレリーフが掛かっている。
美しい中庭などがあるが、途中から道は水に浸かっている。
その先の水中に没した部屋のいずれかに、下層を開く仕掛けがあるらしい。
【ハヤブサの道】
ハヤブサのレリーフが掛かっている。
迷宮の中の空中回廊のようだが、道が崩れて途切れ途切れになっている。
途切れた道の先、中空に浮かぶドーム状の部屋の天上に、下層を開く仕掛けがあるらしい。
【ネコの道】
ネコのレリーフが掛かっている。
しゃがまなければ通れないほど狭い。ところによっては猫程度しか入れないほど狭い。
分かれ道が多く、分かれ道の先のどこかに、下層を開く仕掛けがあるらしい。
※PL情報 下層を開く仕掛けは、それぞれの道の名と同じ動物の石像が目印です。
2.ところどころ崩れ落ちている部屋や柱廊
崩落個所が、迷宮を行く者たちの行く手を阻みます。
あちこち傷んでいるので、探索中に崩れ落ちる危険性もあります。
3.地球は滅亡する方がよいと考える『地球滅亡教』の狂信者たちの襲撃
黒いベールを被った謎の集団です。
計画を成功させてはならないと、こちらと同じくらいの人数が、迷宮に入ってきています。
彼らは、刃物や弓・投げナイフなどに加え、小型のレーザーガンで襲ってきます。
<黄金のキャップストーンの在処>
古代の書物によると、迷宮の下層のさらに下、最深部にあるピラミッド型の部屋にあるらしい。
【言語の問題】
小型翻訳機が発達しているため、耳につけるピアスサイズのイヤホンマイクを身に着ければ
どの国の人とも問題なく会話できる。アフマドもこれを使用して日本語を話している。
【通信の問題】
小型の通信機器で、迷宮内と地上との通信は可能。
時代をまたいでの通信は不可能。(現代と1999年の間は通信できない)
現代のスマホなどは、インターネット回線にはつなげないが、
スタンドアローンで使える機能であれば、バッテリーが保つ限り使用可能。(カメラ機能など)
【タイムトラベル技術について】
・卵型の道具を使う。1回のタイムトラベルにつき一人1個必要。
◇アクションについて
・どこに行くか、何をしたいかをアクションに書いてください。
迷宮に入る方は【ワニの道】【ハヤブサの道】【ネコの道】どの道を通るか選んで、
アクションに書いてください。
・もちものは、手で持てる程度のものまで現代から持ち込めます。
・ろっこんは通常通り発動します。
・未来に行く前に、何かを準備をすることもできます。(準備時間は数時間です)
・迷宮に入る前に、未来で何かを準備をすることもできます。(準備時間は数時間です)
通信機や手持ちの武器(刃物や弓、小型のレーザーガンなど)も借りられます。
・未来に行かず、現代のR&R事務所で待機するアクションも可能です。
◇登場NPC
・坂内 梨香:R&Rエージェンシーの実質ボス。冒険好きの血が騒いでいる。ネコの道へ行く予定。
・リンコ・ヘミングウェイ:現代のR&R事務所で待機。
・アフマド博士:もれいびたちを迷宮に誘う。迷宮入り口のホールで連絡役。
そのほか、未来にはアフマド博士の仲間もいます。必要に応じて適時登場するかもしれません。
最後になりましたが、握 利平さん、ガイドへのご登場ありがとうございました。
皆様のお力とお知恵で、なんとか寝子暦1999年の地球を滅亡から救っていただければと思います!
それでは皆様、ご参加お待ちしております。
※未来は常に変化する可能性があり、この1999年が、実際の未来の姿かどうかはわかりません。
※うまく解決しなかった場合、シリーズ化する可能性もあります。