＜三羽烏の襲撃２＞星ヶ丘とシーサイドと旧市街で同時テロです｜リアクション

＜三羽烏の襲撃２＞星ヶ丘とシーサイドと旧市街で同時テロです

●九夜山エリア・決着（２）●

【九夜山：頂上展望台跡地】

　気の遠くなるような凄まじい爆音と爆風が、【Bai sema】の防御結界を外側から揺さぶり──。
　ようやくその爆風が収まり、次に十文字若菜と飛吹蓮太郎が目を開けた時、展望台広場は跡形もなく消滅していた。２人のいる結界の接地面だけを冗談のように残して、後はすり鉢状のクレーターと化した周辺一帯。木々の森も全てが消え失せ、ここより高い場所はもはやどこにも存在しない。
　九夜山山頂──竜巻圧縮弾の爆発により、消失。
「ウッフフ、まあまあの威力だったわねぇ〜。
　この結界の中に避難してなかったら、私もちょっと危ない所だったわ〜」
　シェルター代わりに若菜の結界を使った、クローネは外の荒涼とした風景を見て満足げ。
「ああ……そんな…………」
　そのクレーターのあちこちに散らばる仲間たちの姿を見て、若菜と蓮太郎が呆然とその場で膝を付く。あれは雨寺凛、握利平、呉井陽太、獅子島市子、骨削瓢、八十八旗信彦、桜庭円、小山内海、風雲児轟、恵御納久隆、御剣刀……それにミッシェル・ナイスゲイや大天使天吏までもが、瓦礫に半ば埋もれるようにして、倒れているのが見えた。
「天吏さんや、ミッシェルさんまで巻き込むなんて……」
　若菜の呟きに、心外だとでも言うように、クローネが横から口を挟む。
「あら、天吏ちゃんはさっきの望みを叶えてあげたのよ？
　ミッシェルちゃんには、確かに少し悪いことをしちゃったかしらね。
　でもでも、私が負けるなんて言うから、あのコも悪いのよ〜」
　まったく意に介している様子がない、そのあっけらかんとした姿を見て、蓮太郎は真っ黒な絶望感に塗り潰されそうになるのを、必死で堪える。
（相手は神様……人間が勝てるような相手じゃないって言うのか？
　皆、必死に立ち向かったのに）
「さ、これで邪魔者はあらかた始末できたしぃ〜。
　あとはテオくんを元通り、回収するだけね〜」
　テオを抱いたまま後退りする蓮太郎に向かって、無造作に手を伸ばそうとするクローネ。けれどその前に若菜がキッと口を引き結び、両手を広げて立ち塞がった。
「？　あらやだ、あんた、何のつもりぃ〜？」
「蓮太郎さん……クローネから逃げて。テオを連れて」
「えっ、若菜ちゃん……？」
　呆然と立ちすくむ蓮太郎を振り返ることもせず、さらに若菜が続ける。
「もう竜巻は無いから、この山を降りて逃げられるはず。
　そして、助けを呼んできて下さい。
　ここは、私が食い止めるから」
　それを聞いたクローネが、蓮太郎が反応するよりも早く爆笑した。
「アハハハハハ！　えぇ？　この私を止めるですってぇ？
　ちょっと笑わせないでよ、今のあんたにいったい、何が出来るって言うの？」
「ねぇ、クローネ。私、さっき言ったよね？　大好きな人達を守ってみせるって。
　そこに今倒れている皆は、守りきれなかったけど。
　悔しくて悲しくて、身体がバラバラになりそうだけど。
　でも、だからせめてテオと蓮太郎さんだけは。
　絶対に、絶対に私が守ってみせる」
「若菜ちゃん、でも……」
「お願い、約束して蓮太郎さん。どんなことがあっても、決して後ろを振り向かないって。
　大丈夫……きっとみんなが来てくれるって、私信じてるから！」

【九夜山：登山道】

　九夜山を下りる山道を、飛吹蓮太郎は１人走っている。
　一緒にいるのは、腕の中のテオだけ。若菜も、共にテオの護衛をする筈だった久隆も風雲児も、ここにはもう誰もいない。独りぼっちだ。
（僕には勇気も力も無い）
　そんな絶望に、幾度も胸を押し潰されそうになる。彼が表向き、自信満々で自由奔放に振る舞っているのは、実は彼の亡き妻の見真似だ。こんなふうに悲観的で物静かなのが、彼の本来の性格。
（でも、妻アリアの故郷を）
　息子のあの勘助が、楽しいと言えるこの寝子島を。
（滅茶苦茶にするクローネ達に『俺』が笑っても『僕』は許さない……
　だからどんなに苦しい状況でも、僕もできる限り抗ってみせる）
　胸が痛むような、悲しいことがあった。
　皆が倒れた。
　テオのろっこん暴走を防げなかった。
　若菜を置いてきてしまった。
　何度もつまずいては転び、そのたびにまた立ち上がって走り出す蓮太郎の口から、いつしか慰めのメロディが零れ出す。口ずさんでいるのは『祝福のアリア』。もしこの場に別の誰かがいたとしたら、ろっこん【Orpheus Ballade】が発動して若返って見える、彼の昔の姿がきっと、見えたことだろう。

　そうやって蓮太郎は、テオを抱えたままひたすら走る。
　いちばん大事な事は、あの若菜と最後に約束したこと。
（どんなことがあっても、決して後ろを振り向かないって約束したこと）
　だから今、その背後で起こっている出来事に、蓮太郎はまだ気が付いていない。
　消失してしまった、あの九夜山の山頂に。ブラックホールのような黒い球体が突如として出現し、みるみるその直径を増して、周囲の九夜山そのものを呑み込み始めてしまったことを。
（大丈夫）
　彼が下ってきた道や、森の木々を音もなく喰らい尽くしていくその暗黒の闇に、きっぱりと背を向けながら。
　蓮太郎はただ、ひたすら走る。今自分に出来ることは、それだけだから。
（そして必ず、仲間達を連れて来るから。
　だからそれまでどうか無事でいてくれ、若菜ちゃん……！）

　九夜山展望台にて、テオ救出班、蓮太郎を残して全滅。
　らっかみテオのろっこん【かみさまクリエイション】──暴走中。

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