夏の寝子島｜リアクション

夏の寝子島

　シーサイドタウンの南西にある二階建ての小さなマンション、ニャス・ポ・ワール黄昏荘からトワ・E・ライトフェロゥが飛び出してきた。金色のポニーテールを弾ませて止まると、空に向かって叫んだ。
「summer！」
　両手を空に思い切り伸ばす。
「winterデスケドsummer！」
　言い切ったあと、首を傾げる。
「暑いけど冬じゃないデス。冬だけど夏デス？」
　数秒の悩みを吹き飛ばす勢いでトワは走り出す。淡いピンク色のワンピースの水着に付いた白いスカートを翻し、青い彼方を目指した。
　途中で警ら中の警察官に出くわした。トワの水着姿を見て渋い顔をする。子供だし、と呟くと別の方面に自転車を走らせた。
　寝子ヶ浜海岸が一望できる場所でトワは叫んだ。
「このwonder dayナラ呼べば来るマス。アキヒロー！　食べ物が欲しいデス！　用意するデスヨ！」
　直後に耳に手を当てる。人々のざわめきが聞こえてきた。
「アキヒロ、海のモズクになったデス？」
　青い瞳をくるくると動かす。一つの露店を目にすると砂浜を駆け降りていった。
　露店には髭面の店主がいた。前の台に小振りのスイカが手頃な値段で売られていた。スイカ割り用と手書きの文字が添えてある。
「watermelonもらうデス！」
「メロンだって？　あ、スイカのことか」
　髭面の店主が一個のスイカを網に入れて渡した。トワは小銭を必死に数えながら支払った。
「冷やすデスヨ！」
　網に入れたスイカを引き摺って波打ち際まできた。ハンマー投げの要領でグルグルと回り出し、トワッの掛け声で海に投げ飛ばした。その飛距離に満足した表情を浮かべる。
「どうして離れていくデス？」
　波間に見えるスイカは沖の方に流されていく。握っていた紐ごと投げていたのだ。
「wonder dayナラ呼べるマス。come on メリー！」
　やはり、何も起きなかった。トワは流される紐を急いで掴み、自力でスイカを引き寄せる。
「イッコ、増えてるマス？」
　スイカの横に丸い物体が浮いていた。力一杯、紐を引っ張るとスイカを胸に抱えた女の子が現れた。紺色のスクール水着に身を包み、どこか恥ずかしそうにして立ち上がる。
「海にスイカが落ちていたから拾ってあげたの」
「メリーお久しぶりデス！」
　撥ね跳ぶトワに女の子はスイカを手渡した。その一部には歯型のようなものが残されていた。
「トワはメリーとsummerを遊びたいと思うマス！」
「遊んであげてもいいの」
　女の子はスイカを見ながら言った。トワは早口で捲し立てる。
「beach flagsにSand castle. shells あーつーめー！」
　最初にビーチフラッグスをすることになった。一本の木の枝を旗に見立てて砂浜に突き刺す。二人は後ろ向きの腹這い姿で並ぶ。
　トワが横を向いて女の子に言った。
「トワの『よーいズドン』の声でrunしてflag取るヨ」
「わかったの」
　トワはにっこり笑って息を整える。
「よーい『ズドン』デス！」
　トワが後ろを振り返った時には、すでに女の子が木の枝を手にしていた。瞬間移動の成せる業であった。
「wonderスギルのデス！」
「メリーさんの特技なの」
　女の子は誇らしげな顔を見せる。トワは納得した顔で海の方に走り出した。気に入ったところに座ると、少し湿った砂浜を盛り上げて西洋風の城を作り始める。女の子も一瞬で横に並ぶと天守閣に挑戦した。
　トワは二つの城を見比べた。
「同じcastleでーも、ぜんぜん違うデス」
「個性があっていいと思うの」
「soデスネ」
　二人は微笑みを交わし、夢中で砂に塗れた。