夏の寝子島｜リアクション

夏の寝子島

　クルーザーは夜間用の明かりに包まれた。八神修は先にシャワーを浴びた。涼しげな浴衣に着替えて甲板に出てきた。大きなチェアに横になり、瞬く星を眺める。傍のテーブルには冷たい緑茶がある。一口して静かに瞼を閉じた。
　船内では三人の女性がシャワーを済ませて着替えを始めていた。
　最初に後木真央が動揺の声を漏らす。
「月ちゃんの下着が黒いスケスケで夜の蝶なのだ」
　話に便乗するように椿美咲紀が身を寄せてきた。
「あれこそ、大人の女の色香なのです。さりげなく出るところも出ているのですです」
「皆さん、どうされたのですか？」
　黒い浴衣に黄色い帯を締めた常闇月がさり気なく返す。
「ど、どうもしないのだ。真央ちゃんもちょっとは出ているのだ」
「私もちょっとは……」
　美咲紀は胸元を見て瞬時に浴衣となり、足音を鳴らして甲板に出ていった。真央と月が後に続く。
　満天の星空が三人を迎えてくれた。穏やかな波のような感動が胸に押し寄せてきて溜息が漏れる。
　月は潜めた声で二人に言った。
「私達への配慮で相当に疲れていたのですね」
「そうみたいなのです。花火は三人で静かに楽しむのです」
「真央ちゃんも賛成なのだ」
　修はチェアに横なった状態で寝息を立てていた。
　真央がバケツに海水を組んだ。
「これで残った火を消すのだ」
「シュー君の睡眠を邪魔しないように花火は静かな手持ち花火にするのです」
「私も賛成です」
　月は用意された花火を各々に取り分ける。火種のロウソクを介して各自が花火に火を点けた。
　三者三様の色の奔流が目を楽しませる。時間と共に色は変化した。美咲紀は月の側に身を寄せた。
「私の花火、色がとっても綺麗なのです」
「そうですね。私の花火と合わせると、色はどうなるのでしょう」
　月は美咲紀の花火に色を重ねる。正面にいた真央が目を輝かせた。
「仕掛け花火のナイアガラみたいなのだ。真央ちゃんも参加するのだ」
　三人の花火の色が合わさった。不思議な色合いの花火に全員が声を忘れて見惚れる。
　その中、月はぽつりと口にした。
「皆さん、楽しい一日をありがとうございました」
「その言葉は少し早いのです」
　美咲紀が真央の方に目を向ける。理解したという風に胸を叩いて見せた。
「まだ花火は終わっていないのだ。線香花火が残っているのだ」
「締めはしっぽりと線香花火なのです。でも、今日は本当に楽しかったのです。夏がきたら、また皆で集まって遊びましょうなのです」
「真央ちゃんは叔父貴の漁船を乗っ取ってカジキの一本釣りを豪快に楽しむのだ～」
「その時が来ました時にはよろしくお願いします」
　三人は花火よりも明るい笑顔で線香花火に火を点けた。
　修は横になったまま、薄目を開けた。満足した表情で、そっと瞼を閉じる。
　――今年の夏も皆と一緒に……。
　緩やかな風に吹かれて修は意識を手放した。

　寝子島の夏は密やかに終わりを迎えた。

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あとがき

担当マスター：黒羽カラス
ファンレターはマスターページから！

一日だけの夏でした。思う存分、楽しめたでしょうか。
本シナリオでは複数のアクションを書かれた方が多くいました。
他ＰＣの絡みや予期しないＮＰＣの出現で、限界文字数との熾烈な戦いになりました。
ＰＣの全部の要望には答えられず、泣く泣く削った描写もありました。
書いてはいなくてもどこかで楽しんでいた、と脳内補完していただけると主に私が助かります。

最後に参加していただいたこと、心より感謝いたします。
ありがとうございました。今後もよろしくお願いします。

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