FREEZE!!｜リアクション

FREEZE!!

「……じゅーぅっ！」
　見慣れた風景なのに、そこはかとない違和感が纏わり付く寝子島に、少女の声が響いていた。
　鬼ちゃんのカウントダウンだ。１になったらスタートなのは、中高生になって『鬼ごっこ』遊びをしなくなった今でも皆の頭に刻まれた記憶だ。

「とんでもないことに巻き込まれてしまったね。氷鬼かあ……小学生ぶりだなぁ」
「追跡役の交代しないタイプのやつは初めてだな」
「しっかし懐かしいなぁ！」
　ロベルト・エメリヤノフが腰に両手をあてながら呟くと、フィーナ・シレンツィオと志波武道が笑顔で返す。彼らが懐かしい頃に想いを馳せていると、ノスタルジックな空気を遠くから聞こえて来る水上桜の叫びが打ち破った。
「こっちは間近に迫った高校入試でそれどころじゃなーい！　フツウ死守より高校入試！　フツウより自分の合格が第一！」

　自身と同学年の切実な主張を別の場所で聞いていた新江天懸は、徐々に減っていく数字に耳を傾けている。先ほどの空間でイリヤ・ジュラヴリョフの姿を見つけた。正直なところ今は顔を合わせ難いのだが、この状況ではそうもいかないだろう。
　ところで彼が何処に居るのかだが、まさか学校のかわりにそびえ立つあの城の最上階とは、天懸は知る由も無い。

　同じく桜の声を聞いていた佐藤英二は、本日の授業に遅刻か否かを考えている。平行世界に居る時間が現実世界でも加算されるのなら、登校中だった彼らは現時点で既に、一時間目に間に合わない。
「大遅刻確定な気がするなぁ……」
　だったらいっそ開き直って遊びに専念しようか。鬼ちゃんもガチでやれと言っていた事だから。
「頑張らないと脱出出来ないみたいだし」
「ああ、やるなら徹底的にだ。負けるつもりはない」
　市橋誉が挑戦的に唇の端を上げて、英二と視線を交わす。
　
　一方響タルトは通学鞄から水筒を出して、中の水を自身に振りかけていた。もれいびの彼女の身体がみるみる猫に変わっていく不思議な光景を——、そして卯木衛が肩慣らしに地面を蹴って有りえない位置まで跳躍するのを、篠原翠響はなんとも言えない顔で見つめていた。
「話を聞く限りじゃ結構ハードモードって感じ」
「任せろ。すばしっこく動くのは得意だぜ！」
　衛が仲間へ向かってニッと歯を見せたので、タルトは「にゃあ」とひと鳴きして応えるが、翠響は曖昧に頷いていた。
（自分は彼らみたいなもれいびじゃなくて『ひと』なので、不利……）
　翠響は自身の能力に無自覚で、ただの人間であると認識していた。だから戦闘はもれいびに任せて自分は……と、城を見つめてクレバーに考えている真っ最中だ。

　そこからまた離れた場所でも、城を見ている学生がいる。
「鬼の人数は何人だろうな」
　獅子目悠月が呟いている近くでは、来島アカリが仲間を探してキョロキョロしていた。
（とりあえず、近くに誰かいたら合流してー。一人でいるよりマシだろうし……）

　さて、いよいよ時間が迫ってきた。
「さーんっ……にーーーいっ……」
　もったいぶったカウントダウンもいよいよ最後の一つ。
　御剣刀は片膝を折って足の筋肉を伸ばしながら腰を捻る。これで準備は万端だ。鬼ごっこと聞いて、彼は自身の持つ加速の能力を封じようと思った。
　『ガチで』と言われてはいるが、これは『鬼ごっこ』なのだから——。
「いちっ！！」
　鬼ちゃんの声を聞いた瞬間、刀は顔を上げてまっすぐ城を見据えた。
「よし、遊ぶか！」

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