寝子島の住宅街。道が通勤と登校中の人々で溢れていた時間——、童女は現れた。
晴れやかな着物を着て宙に浮かんでいる彼女の黒髪には、2本のツノが生えている。
「鬼ごっこしようよ」
赤い唇が誘いかけた瞬間に、世界は暗転した。
* * * * *
「アニメで主人公が闇落ちしかけて精神世界に入った時の背景ってカンジだね!」
プロコスプレイヤーの
伊橋 陽毬のある者には分かりやすくある者にはサッパリな説明通り、ここには何もなかった。ただ集められた人々が空間のなかでぽつぽつと、浮きも沈みもせずに立っている。
中央にはあの童女が居た。
「私は鬼ごっこの妖精です」
童女は名乗ったが、聞き手が首を傾げる、まるで聞いたことのない身分だ。
「
鬼ちゃんって呼んでください」
テレビCMで聞いたことが有るような渾名を自ら所望している。どう受け止めたら良いか困惑する鬼ちゃんのキャラについて皆がざわつき始めると、作家の
大道寺 紅緒が軽く手を挙げた。
「此処は貴女の作り出した
平行世界。そう認識して宜しくて?」
「うん、流石中二作家は話しが分かるね。そう……私はかつて身体が弱かった」
鬼ちゃんは胸に手を当てて目を閉じた。
「物心ついた頃からずっと入院していて、いつか学校でクラスメイトと遊びたいなと思ったりしなかったりするうちに死んでしまいました。その怨念でこの平行世界の主となったのです」
「それ嘘でしょう」
旧市街のレトロカフェの末弟
イリヤ・ジュラヴリョフの指摘に、「うっそでーす」鬼ちゃんはダブルピースで答えた。
そろそろ真面目にやって欲しいと言う視線を受けて、鬼ちゃんは漸く説明を始めてくれた。
「皆で楽しい鬼ごっこをして貰います。決着がついたら元の世界に戻してあげるよ!」
鬼ごっこ(刃物可)とか物騒なことを言い出すのかと思ったら意外とラクそうな条件だ。皆がほっと息をつくと、反対に鬼ちゃんはキレぎみになった。
「ガチでやらないと出さないから」
「というワケできらきらきらきらー」
鬼ちゃんが片手をあげると、なんとなく魔法っぽいきらきらが集まって、曖昧だった世界が寝子島に変わった。しかしいつもの風景とは違い、全面が雪と氷で覆われている。
「
『氷鬼』のステージぃぃイ」
直後に鬼ちゃんはアゲアゲだったテンションを急降下させて、どこからともなく出した眼鏡をかけ、研究者のように説明を始めた。
「『こおりおに』とは、鬼ごっこ遊びのひとつデアル。
まず『鬼』と『子』に分かれる。鬼は子を追いかける。鬼に触れられた子は凍ってしまい、その場で動けなくなる。そういうヤツデアル。
皆様にはそれをやって頂きたいデアル」
鬼ちゃんがキメ顔でそう言うと、その背後に巨大な寝子島のマップが現れた。
「エー、普段なら寝子島高校があるこの場所ですが、鬼ちゃんが改造してしまいました。
校舎の位置にどこぞのメガヒット映画で見たような氷の城が建っております。
そこの
大広間に氷の花があるので、それを手に入れたら『子』チームの勝ち。『鬼』チームに全滅させられたら負け。オーケイ?」
鬼ちゃんはそれぞれの顔をざっと見て、ひとつルールを付け足した。
「因みに
凍らされた『子』も誰かに抱きしめて貰うと解凍出来ます、俗に言うレンジでチンルールです」
「はーいせんせーい」と質問があがり、
「なんですか」鬼ちゃんは眼鏡をくいっと押し上げる。
「誰も抱きしめてくれない人はどうすればいいんですか?」
「ぼっちの心は既に凍っているだろう!!」
鬼ちゃんの迫力で、眼鏡のレンズが割れた。
「というワケでーまたきらきらきらー」
なんとなく魔法っぽいきらきらが今度は皆の上に降り注いだと思ったら、すでにそこは凍れる寝子島の中だった。
遠目にどーんと大きな氷の城が見える。あの城の中の氷の花を手に入れれば勝利だ。
空から鬼ちゃんの声が響いてきた。
「氷鬼たちは既に城でスタンバってるよー。氷の魔法が使えるから当たったらピンチ! きゃーっ! 注意してつかァさい。そいじゃ頑張ってね」
こうして、異世界での壮大な? 鬼ごっこが幕を開けたのである。
皆様こんにちは、東安曇です。
今回のシナリオは『平行世界の寝子島でこおり鬼』をするストーリーです。
もちろんろっこんを使用しても構いませんが、人間対人間のお遊びなので、過度な暴力描写は致しません。全てコメディ風になります。
判定はややハードです。敵が多めなので、役割分担をしてみると良いかもしれません。
因みに鬼ちゃんは探したり捕まえようとしたりしても上手くいきません。予めご了承ください。
ルール
▼PCは全て『子』になります。
子はスタート時に寝子島高校近くのあちこちに分散していますが、「たまたま一緒に居たので一緒にスタートする」でも大丈夫です。
『氷鬼』役のNPCに対抗しながら城の大広間を目指し、そこにあるアイテム『氷の花』をPCの誰かが手に入れれば『子』の勝利です。
反対に全てのPCが氷結(凍ってしまう)すると『氷鬼』の勝利です。
▼氷結状態になると動けなくなります。通常ゲームオーバーですが、誰かに抱きしめてもらうと解凍で再び動けるようになります。
▼敵側に寝返ることも出来ます。
敵NPC(氷鬼)、(捕虜)
PCの行動を邪魔してくる氷鬼(役)たち。ガチでやれと言われているので、まあまあ全力です。ろっこんの力ではなく鬼ちゃんに与えられた力なので、発動条件は特にありませんが、中の人は所詮普通の子供なのでアレでソレ。
▼ザコ(と呼ばないでほしい高知 竹高、水海道 音春、幌平 馬桐、水海道 奏)。
城の内外にいる鬼たち。
フツウ鬼、チビ鬼、メガネ鬼の中学生鬼たちとメガネの妹小学生女児鬼の4人で、彼らに触れられると氷結判定です。女児鬼に関わると事案が発生するかもしれません。心を強く持ちましょう。
▼氷雪ノ吟遊詩人(を積極的に名乗りたい大道寺 紅緒)
悪い双子と、城の1階に居ます。
ハードカバーのネタ帳から、氷の巨像を召喚してPCを襲ってきます。巨像の攻撃が当たると氷結判定です。
▼悪い双子1、2(ってネーミング安直過ぎたかなと思いはじめたエリセイ、レナート・ジュラヴリョフ)
氷雪ノ吟遊詩人と、城の1階に居ます。
二人で手を合わせると氷の壁が発生、これにぶつかると氷結判定です。物理攻撃もしますが、かなり控えめです。
▼氷の女王(でハイな伊橋 陽毬)
城の2階に居ます。
氷の鞭の使い手で、これに当たると氷結判定です。女王ってそういう……。
▼割といつものイリヤ・ジュラヴリョフ
城の3階の大広間に居ます。氷晶を投げたり飛ばしたりして攻撃してきます。これにぶつかると氷結判定です。
▼捕虜(になったものの、何も考えていない日本橋 泉)
高い将来性(印税的な意味で)を狙われてお城の一階に捕まっている天才中学生。助けると仲間になってくれます。