終末救世主　～寄る辺なき悪意と蒼い月～｜リアクション

終末救世主　～寄る辺なき悪意と蒼い月～

「敵と遭遇すれば基本は討伐と言う形でいいのかな？」
　赤い雨が降り、蒼い月が昇った空を眺めて御剣刀は宗像家から借り受けた刃を背に背負う。
　形状は鉈にも似た奇妙な刀身は仕掛けで固定すれば頭蓋骨をも叩き割る事が出来そうな強度を誇っているだろう。
　こじんまりとした長屋の中で詔子は刀に小さく頷き、由貴奈達のリクエストである芦澤との面会へと訪れていた。
「大きな蹄があったって話しがあるし猶更だねぇ、獣の仕業って感じぃ……」
　由貴奈の言葉に芦澤庸一は大きく頷き続ける。由貴奈の言葉に意味深に頷く轟も気になるの事があると庸一の隣に腰掛けた。
「獣は詔子さんの両親を殺した後にすぐ居なくなったのか？」
「はっ、そうですね……ご当主様達を――……はい、そうだったと思います」
「獣は１匹だけだったのかなぁ？」
　轟の言葉に繋げる由貴奈に庸一は多分と曖昧な言葉を返す。
　一匹であるか、そうでないのかが庸一には解らないのだと言う。
　最初に両目を潰され、聞こえたのは当主の声。『何でお前が』の只、それだけ。
「『何でお前が』――？」
　刀がその言葉に疑問を浮かべて首を傾ぐ。外を眺めていた彼の視線が庸一へと向けられ、奇怪な存在を見る様に値踏みをする。
「それは、どういう意味だ？」
「はいぃ……？」
「『何でお前は』という言葉は、知っている相手にしか発されないだろう？
　獣の仕業だと言ったのはお前達だ。……何を、聞いた？」
　刀の冷静な一声を受けて、アリーセが考え込む様な仕草を見せる。
　盲目な男に残された情報は『耳』だったのだろう。過敏になった聴覚が捉えた言葉の意味は――

「獣になった『知り合い』を見た、ということ？」

　獣の所為でなければ詔子の言う「人の悪意」ということになるとアリーセは推理していた。
　仲間達の反応を見詰め、小さく首を傾いだ由貴奈は「んー」と呟く。
「俺には獣の習性とか解らんが、目を抉られると言うのはそうそうないだろう？
　……目撃者なら、全員殺してしまうのが筋だろうに――どうして生かしたのか解らない」
「そ、そりゃあ……あっしら、『見て』はねぇですから」
　たどたどしく呟く庸一の言葉に轟が首を傾ぐ。眠たげな瞳を瞬かせた由貴奈は首を傾いだ。
（見てないけど、聞いてる――？　聞かせた……？）
　首を傾ぐ由貴奈は推測を一つ、口にする。
　誰か、獣以外の声はなかったか、と。言い争いもなかったか、と。
「……獣を操れる可能性がある、ってことだよね。知性が高いヤツがいるなら群れを統率してるかもしれないしぃ……」
「そんな、危険な――……」
「それ以上に、どーして西の当主さんが獣の研究してるかは分かんないけどねぇ。
　しょーこちゃんがいう『人の悪意』ってそーいうことじゃないかな？」
　研究を知り得る可能性があるから殺す――生存者を残したのは片手落ちだったのだろう。
　聞かせるにしてもヒントを残すだけだ。獣を制御しきれていないのだとすれば。
（まだ、勝利の道筋はあるってこと……だよねぇ）