終末救世主　～寄る辺なき悪意と蒼い月～｜リアクション

終末救世主　～寄る辺なき悪意と蒼い月～

　協力は苦手だと、一人で歩き回る叡知は赤い雨の中、ぐるると喉を鳴らす。
　サーベルタイガーに変身する事が適った彼にとって、二足歩行の獣の中に飛び込むのは容易いのではないかという推論が立った。
（ここはろっこんの力が何時もよりコントロールしやすい様だし、獣人形態になれるか……？）
　路地裏で、獣達とは少し様子の違うサーベルタイガーは牙を噛み鳴らす。
　ぐる、と鳴った喉を堪える様に深く息を吐く。

　集中しろ―――……。

　所詮、この世界はパラレル・ワールドだ。現実世界の自分がそうなれるかは分からない。
　お誂え向きに昇った蒼い月が、自分の血を沸騰させるような引力を感じさせた。
　魔的な月だ。
　獣である自分を励ます様な、魔的な色をした煌々とした月が見下ろしてくる。

　

　ゆっくりと後ろ脚に力を込める。和の世界の中、人気のない長屋を往きながら叡知は徐々に二足歩行の感覚を得た事に気付いた。
　サーベルタイガーである事は変わりがない。月の所為か、それともこの不安定な異世界がそうさせたのか――？
　獣の下肢は人間の様に変貌し、二足歩行が適っていた。

　――――！

「獣か……」
　ぎらり、とセカイノキバを輝かせる叡知は彼らの中へと馴染めない事だろうかと思案する。
　人々を襲うというならば、その中で味方の認識を得て、情報を得れる可能性があるだろう。
　誰かを救う助けが出来るかもしれない。
「オマエ、ナニモノダ」
「……獣だよ」
　二足歩行の獣の瞳が叡知を捉える。人語を理解する知能の高い個体であったのだろうか。
　息を飲み、叡知は「仲間だろ」と続ける。
「オマエホド、コトバヲハアクシテイルケモノヲシラナイ」
（言葉を把握――？）
　首を傾ぐ、叡知は鼻先にすえた血の匂いがする事に気づきゆっくりと後退する。
　己が人である事を忘れぬ様に最低でも倫理観を保ってられる様に。
　彼は、ゆっくりと言葉を吐いた。
「お前は、何者なんだ……？」
　獣は嗤う。確かに、嗤ったのだ。「一緒に来い」と。

　鈍い、破裂音がする。
　咄嗟に武器を握りしめた刀と陽太が外を確認し、庸一に外へ出ないようにと念入りに言い付けた詔子も飛び出す。
　物陰でにさっと走り込み轟は高鳴る胸を押さえた。
「戦衣着装！」
　姿が切り替わり、ヒーローの様に変化する。
　刀を振るい、獣が庸一へ危害を与えぬ様にと対処をする詔子は、背後に二足歩行のサーベルタイガーを見た。
「―――……？」
　その眸が克ち合って、詔子を殴りつけた獣の腕が彼女の腹を裂く。
　赤い雨の下、それが血であるのか、雨であるのか理解できないと詔子が地面に投げつけられ、彼女を護るべくアリーセが両の手を開く。

　