【お正月】日が落ちるまで｜リアクション

【お正月】日が落ちるまで

　宇佐見望月が朝早く寝子島神社を詣でたのち、やってきたのはエノコロ岬。
　まだほんの少し朝の気配が残る水平線を眺めつつ、彼はかつてこの場所で起きた偶然に思いを馳せていた。

　あの日、横には明るい笑顔があった。
　人懐っこい、けどしっかりと自分を持った、その表情。
　競うように走り、この場所まで登ってくる間、何度も何度も彼女の方を無意識に窺っていた。
　妙にむずがゆくて、てれくさくて。そんな気持ちでいっぱいになるのが何故だかよくわからなくて。
　彼女――後木真央と一緒にいると、無性に言葉を探して、なんとなく焦ってしまって。
　けれども今は、その正体もようやく理解できていた。
「ってかさー、真央ちゃんが好きだって気づくの遅すぎじゃね、俺」
　岬を満たす陽の光を全身に浴びながら、思わず片手をあげて、横にいる誰か――意識の中での、過去の彼自身なのだろうが――につっこみを入れる望月の表情は、己へのあきれと、ほんの少しの照れくささが浮かんでいる。
　恋愛がらみでの願掛けを、柄にもなくやろうと思ったわけで。
　そんな自分がどこに願うか考えた時……自然に足が向いたのは、この場所だった。
『一緒にうれしいことしましょうなのだ♪』
　にぱっと笑う彼女の表情を想像し、頬がくずれる。
　恋愛がらみのお願いでもあれば、あの日彼女と触れ合った場所でもあるこの場所で、真央ちゃんと一緒にお願いできたら――そんな夢想で、やたらに嬉しさがこみあげてきて。
「……って、告白成功してからそういうの考えろよ！　前にも告白したけどよ！　アレ夢だったろ！　ねーちゃんに怒られたろ！　寝言いい加減にしろってさ！」
　５回素振りのセルフ突っ込み。
　突っ込んだのち、情けなさに、ひざから崩れ落ちかけたのは心の中に秘めようと誓う。
　誰もいないであろう朝のこの時間であることに油断し一人漫才を繰り広げていたわけだが、はっ、とここに来た理由に一周回って思考が戻ってきたらしく。
　こほん、と一つ咳払い。
　南京錠はもっていない――ニャンプラを買いすぎてそれすら買うお小遣いが残っていないかわいそうな子であった――ため、単に鐘をならし、手を合わせる。
「真央ちゃんに好きだーって告白する勇気ください！」
　誰にかはわからないが、寝子島の神様に願う。
「俺の友達軒並みリア充なんです！　俺にも春が来てほしいです！　爆発してーぜコンチキショー！」
　最後は謎の叫びになってしまった。
　反省しつつ、うし、と気合を一つ。
　頬を二度たたくと、帰路へつくべく回れ右をして――
「うお」
　思わず声がでていた。
　おとなしそうな女の子が、ちょうど近づいてきたところで。
　やべー、聞かれてねーかな、一人漫才。そう心の中で呟きつつ、軽く会釈だけしてすれ違う。
　内心焦りまくっていた宇佐見。
　そんな彼が、町中へ帰り着いたころ、ちょうどお出かけするところであった後木真央とばったり会うのは、また別の話である。もっとも、「俺様ん家で飯食うか？」としか言えず、「もう食べてきちゃったところなのだ、また今度なのだー♪」と清々しくからぶっただけの出来事では、あるのだが。