【お正月】日が落ちるまで｜リアクション

【お正月】日が落ちるまで

　おじいちゃんと初詣です！

　ミルカ・アハティアラは、神社でばったり出会った大天使天吏に笑って言った。
「知ってますか？　お正月にここでお願いをして、それで、どこか別の場所なんですけど、もう一度その日のお願いできたら、願いが叶うそうなんです！」
　スーパーで偶さか、ほんの少しやり取りをしただけの年上の少女。片目を隠した黄金色の髪の少女は人込みの中でも、どこか少し人とは異なるたたずまいで、自然に目に入ってきたのだ。
　祖父に連れられてきた初詣にわくわくしたテンションのままに、ミルカは怖気を見せず、「こんにちは！」と声をかけていた。
「お願いが叶う場所を探すなんて、なんだかとってもわくわくしますね！」
「そう、ね……」
　言葉すくなに応じた天吏。それでもミルカは気にしない。
　ひとしきり楽し気に色々と話しかけていたところで、祖父が少し離れたところから、そろそろ行くよ、と声をかけてきた。
　気づけば参列者の列もだいぶ進んでしまっている。
「じゃあ、お姉さん、またです！」
　手を振って祖父のもとへと走るミルカに、天吏もまた、小さく手を挙げて、胸の前でゆらゆらとふってくれた。
　あ、名前なんでしたっけ……。
　ふと思ったものの、再びの祖父の声に、立ち止まりかけた足で、また駆けた。

　祖父から「店をあけないといけないからなぁ……ミルカだけになるが大丈夫かい？」と問われ、「大丈夫です！」と自信をもって答えたものの、はたとミルカは立ち止まった。
　さてどこへ行こう。神社を後にして、考え込んだミルカ。
　朝にお願いして太陽が沈むまでの間にもう一度。
　聞きかじった条件を思い起こし、ううーん、と考え込む。
　おひさまが出ている間にもう一度お願いするんですから……
「もしかしたら、おひさまがお願いを叶えてくれるのかな？」
　子供らしい直線的な思考。けれど、それはちょっとした冒険にわくわくするそれであった。
「きれいに沈むおひさまが見れるとこ、どこでしょう」
　少しだけ考え、ミルカは一度家に帰ることにした。
　小さな旅行には、しっかりとした準備が必要なのだ。

　マフラーよし。
　手袋よし。
　上着よし。
　シーサイド駅へ降り立ったミルカは、自らの装備を再点検し、「完璧です！」とひとりごちた。
　そのまま、海の方へ。
　まだ小学生のミルカには、数キロの道のりでも、それなりの遠足だった。
　目指す先は、エノコロ岬。
　できれば日が傾く前にたどり着いて、お願い事をしたいな。
　そんなことを思いながら歩くミルカ。
　浜辺沿いの道は、ランニングをする人や、犬を散歩させているミルカと同じ年頃の少女、買い物に向かうらしいおばあさんまで、いっぱいの人通り。
　すれ違う人たちに元気に「こんにちは！」と声をかけながら、上機嫌で歩き続けるミルカ。
　ようやくたどり着いたのは、もう少しで太陽が真っ赤にそまりそうな頃合いだったが、なんとか間に合った、そのことがミルカはうれしかった。
　ふと見やると、海を見てたたずむお姉さんがいて。
　声をかけたほうがいいかな？　ご挨拶しようかな？
　少し考えたものの、じっと海を見つめるお姉さんを見ていると、なんとなくそっとしておいた方がいいような気がして。
　だからミルカは、その少し後ろから、沈みかける夕陽に向かって、頭をさげて、静かに祈った。
　ミルカの一年で最も好きな日、クリスマス。
　でもそれは一年の最後で、そこまでに色々なことが積み重なって、素敵な日になるのだと、思っていた。
　だから。
　次のクリスマスまでに、うんと素敵なことがたくさんありますように！
　お姉さんの邪魔はしないように、心の中で大きな声でお祈りをして、ミルカは街へと踵を返す。
　新年早々に、わくわくできて、願ったことができて、いろんな素敵な出会いが道中にあって。
　きっと、今年も素敵な年になってくれるといいな、そんな風に思いながら、足取り軽く、ミルカは家路をたどり始めた。