メリーさんのお手伝い大作戦、なの｜リアクション

メリーさんのお手伝い大作戦、なの

　電信柱の先端に一羽のカラスが止まって羽を休めていた。その時間を利用して毛繕いに勤しむ。
　程なくしてカラスは下を向いた。誰もいない公園に金髪の少女、トワ・E・ライトフェロゥが訪れた。ポニーテールの赤いリボンが印象的であった。ピンクのふわふわとしたワンピースは愛らしさを前面に押し出していた。
　それ故にトワの引き摺っている生物に威嚇の目を向けた。紐に繋がれて多数の足をうねらせている。赤く膨れた顔は激怒しているように見えた。
「おしょーガツにはＴＡＫＯあげるデス！」
　凧ではなく、蛸であった。カラスはいつでも飛び立てる体勢で注視する。
「ＴＡＫＯ、Fly To The　そーらDeath！」
「蛸は空を飛ばないの」
　走り出そうとしたトワの目の前に女の子が現れた。着物姿で頭には赤いリボンを付けている。カラスは突然の事態に驚き、二人に向かって何度も鳴いた。
「メリー、まーた、会えたデス！　リボン、トワがプレゼントしたヨ！」
「割と気に入っているの。それより、どうして蛸を飛ばそうと思ったの」
「おしょーガツ、HomeにＴＡＫＯあったカラあげるデスヨ！」
　トワは紐に結んだ蛸を吊り上げた。擦り傷だらけになりながらも元気に動いていた。
「蛸を空に飛ばせなくてトワは困っているの」
「Soヨ。とてもこまるてるのヨ！　どーしてヨ、ＴＡＫＯそーらーに、ぶっとばしたいデス！　メリー、できるマス？」
　トワは上体を傾けて女の子の顔を覗き込む。電信柱のカラスは無理と言わんばかりに頭を振った。その場で羽ばたいて自慢の翼を見せ付ける。
「少し待っているの」
　瞬時に女の子は消えた。カラスは目をくるくるとさせて至るところに顔を向ける。
「あまり調子に乗ると後ろからブスリなの」
　突然の背後の声に慌てたカラスが片方の足を滑らせた。羽ばたきで辛うじて立て直し、後ろを見ると誰もいなかった。
　女の子はトワの元に戻っていた。一睨みされたカラスは謝るように首を垂れた。
「トワには巻いてある糸を解いて欲しいの」
「コレ、デス？」
　巻き糸の塊を顔の前に掲げる。女の子は、そうなの、と頷いた。
　トワは公園の中を走り回って糸を解いた。周囲に笑い声が響き渡る。カラスには先の展開が読めないのか。身じろぎしないで見ていた。
「できたデス！　メリー、これでOKネ？」
「これでいいの。あたしに蛸を預けて欲しいの。それと解いた糸の先はあたしがいいというまで触ったらダメなの」
　一気に話したことでトワは少し混乱した。頭を左右に振りながら、わかるマス？　と微妙な言葉を返してきた。
「トワはあそこの空を見ているの」
　女の子は何もない青い空の一点を指差した。トワはそわそわしながらも指示に従う。電信柱のカラスも釣られて上空に顔を向けた。
　女の子は蛸と共に消えた。目算で決めた上空に現れ、更に蛸を空に向かって投げた。
　直後に地上に戻って糸の先端をトワに握らせた。
「蛸が空を飛んでいるの」
「ＴＡＫＯ、Fly To The　そーら！　飛んでるマス！」
　トワは興奮して飛び跳ねた。小さい点のような蛸が優雅に空を飛行しているように見える。しかもジェット噴射に等しい、墨を吐いた。
「すごいデス！　すごいのデス！」
「蛸あげのあとは、美味しくいただくの」
　女の子は赤い舌をぺろりと出した。
　カラスはけたたましく鳴いて大空に飛び立つ。必死の羽ばたきで一直線に九夜山へと逃げ帰った。
「そろそろ着陸なの」
「グッド、Death！」
　二人は蛸の行く末を最後まで見守った。

　その日、寝子島では未確認飛行物体の目撃情報が多く聞かれた。異星人の襲来を声高に主張する者までいたという。
　真相は二人だけの秘密となった。