メリーさんのお手伝い大作戦、なの｜リアクション

メリーさんのお手伝い大作戦、なの

　広い居間のテーブルに一年間の思い出が広げられた。八神修は優しい笑みを湛えて一枚の写真を手に取る。サンタクロースに扮した友人達がクリスマスツリーの飾り付けに精を出していた。手前の者達はケーキを美味しそうに頬張る。賑やかな様子を余すことなく、一枚に収めていた。
「クリスマス会の写真か」
　和んだ表情で別の写真を手元に引き寄せた。先程と同じようにケーキが写っていた。目を細めて笑う親友は猫のようだった。
「これは誕生日会だな」
　優しい目で語る。修は深い記憶を探るように手を伸ばす。
　ペットの写真を見つけた。群れる猫や犬がじゃれ合って枠から食み出していた。
「少し昔の写真だね。この頃はみんな子供で、やんちゃだったな」
　風景写真に目が移る。
　日没を迎える前の海は大きな宝石箱のようだった。色鮮やかな琥珀やイエローダイヤモンドの輝きで敷き詰められていた。
　九夜山の全体が緑に燃えていた。むせるような草いきれを想像して鼻をひくつかせた。
　気を取り直して修は一枚の写真を手にした。ツインテールの人物が笑っている。
　別の一枚では凛々しい勇者となり、魔王に扮した修に決定的な弾を撃ち込んだ。
「寝子祭、楽しんでくれたよね」
　修は過去の記憶を渡り歩いた。そこにはいつも同じ人物が写っていた。表情は豊かで一つとして同じ笑顔はなかった。
「ツインテールばかりなの」
「そう、ってメリーさん！？」
　修は顔を瞬間的に横に向けた。着物姿の女の子が平然と立っていた。テーブルに広げた写真を頷きながら眺めている。
「いらっしゃい。そんなに多いかな？　この写真は一年間に撮った物なんだ。それを二冊のアルバムに纏めようと思って」
　修は椅子から立つと真新しい二冊のアルバムを持ってきた。重ねた状態で女の子の前に置く。
　女の子は上の一冊を持ち上げた。下の一冊と見比べて修に横目を向けた。
「良いアルバムなの。でも、下の方が高価なの。ツインテール専用アルバムに思えるの」
「え、いや、たまたまだよ」
　女の子は修の目を覗き込む。瞬きをしないで修が対抗した。
「その必死さが余計に怪しいの」
「やましいことがない証拠だよ」
　女の子はあっさりと目を離した。ほっとした修を余所に一枚の写真を手に取った。
「ツインテールが水着姿なの」
「それは新聞部として撮った物だったかな」
「よく見ると少し透けているの。これはスクープなの。記念にあたしがお持ち帰りなの」
「ちょ、ちょっと待った！」
　取り返そうとした瞬間、女の子は消えた。
「こっちなの」
　修が後ろに振り返ると女の子はいた。着物の衿に写真を挟んでいる。
「俺には通用しない！」
　怯むことなく胸に手を伸ばし、空振りに終わる。
「きゃーなの」
　背後の棒読みの声に修は即座に反応した。また女の子は消えて、再び現れた。
「俺の体力を見せてやる！」
「きゃーなの」
　追い回すこと数十分、修の手は女の子に掠りもしなかった。きゃーなの、という声に振り回された。
「敢闘賞で、この写真をあげるの」
　顎先から汗を滴らせる修に女の子は写真を返した。荒い息を飲み込んで水着姿の人物に意識を傾ける。間もなく難問に当たったような表情となった。
「水着は透けてないようだけど」
「ツインテールの片方が太陽の光で透けて見えるの」
　確かに透けて見える。修は苦笑した。
「水着が透けているとは言ってなかったよね」
「そうなの。ツインテールが好きなの」
「認めるよ。ついでに女心も教えてくれないか。どうすれば両想いになれるのかな」
　遠慮がちに聞くと女の子は、簡単なの、と言った。修は緊張の面持ちで言葉を待つ。
「必死になる姿は泥臭くてカッコイイの」
「……そうか。そうなんだな」
　何かを得たような顔付きで修はケーキと紅茶を使用人に用意させた。
　その後、ツインテール専用アルバムが二人の選別によって作られた。

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