メリーさんのお手伝い大作戦、なの｜リアクション

メリーさんのお手伝い大作戦、なの

　洗い物を済ませた鴻上彰尋が思い付いたように居間を覗き込む。炬燵の中には弟妹がいて顔だけを出していた。外に遊びに行く気配は微塵も感じられない。
　彰尋は大きな独り言で試してみた。
「今日は時間があるから居間を掃除しよう。大きい棚も動かすか。そうなると炬燵が邪魔なんだよなぁ」
「掃除は今度でいいよ」
「そうそう」
　弟妹はごろ寝した姿で返してきた。彰尋は困ったように笑う。
「ここであたしの出番なの」
　突然の声に彰尋は横を向いた。
「あれ、お嬢さんは？」
「あたしはメリーさん。遊びにきたの」
　女の子は弟妹の方を見ている。目立たない仕草で親指を立てた。目にした彰尋は軽く頭を下げた。
「お前達、今日は天気がいい。このお姉ちゃんが外で一緒に遊んでくれるそうだ」
「なにして遊んでもいいの」
「じゃあ、雪合戦をしようよ」
　元気よく立ち上がる弟に釣られて妹も炬燵から這い出した。
「こらこら、お姉ちゃんは着物なんだから、雪玉をぶつけるようなことをしたらダメだぞ。それとおやつを用意しておくから、帰ってくる時間は」
「三時だよね」
　先回りした妹が笑顔で言った。弟は嬉々としてプリンを連呼した。
「外に遊びに行くの」
　女の子は先頭で歩き出す。弟妹がはしゃぎながら付いていった。玄関に向かう途中で相談が賑やかに行われた。カクレンボや缶蹴りを挙げて、最後は雪合戦に決まった。
「……着物なんだから程々にしてくれよ」
　気にしながらも彰尋は炬燵を片付けた。細々とした物を居間から出して掃除道具を持ち込んだ。
「やりますかね」
　マスクを装着した。長袖のシャツを肘まで捲り、ハンドタイプのモップを手にする。高い所から掃除を始めた。徐々に下へと向かう。取り切れなかった埃は纏めて箒で掃いた。最後は家具に取り掛かる。額にはじんわりと汗が浮き出ていた。
　一通りの掃除を終えた。細々とした物を元に戻して置時計に目をやる。
「意外と早くに終わったな」
　彰尋は着替えを済ませると台所に向かった。まずは冷蔵庫を開けた。使えそうな物を選んで食卓に乗せていく。戸棚からはチョコレートを取り出した。
　並べられた食材を見て頭の中で組み合わせていく。
　――粉ゼラチンはある。牛乳に卵。お節の残りの黒豆を使えば黒豆プリンが出来る。あとは雑煮用の餅か。
　少し考える間を空けた。
　――細かく切ったあと、少し水を加えて電子レンジでチンすれば柔らかい餅に戻せる。表面を片栗粉で塗して、熱い間に中にチョコレートを入れよう。名前は、そうだな。
「チョコ大福かな」
　彰尋は納得の笑みを浮かべた。頭の中で手順を決めて行動に移る。
　大きな皿の上に丸く成形されたチョコ大福が大量に並べられた。冷蔵庫には相応の黒豆プリンが冷やされている。
　――これだけあれば弟妹が友達を連れてきても大丈夫だな。
　一仕事を終えた彰尋は自身の肩を揉んだ。
　そこに賑やかな声が飛び込んできた。弟妹が友達を連れてきたようだった。
「メリーさんは凄いんだぜ！」
「あのね、雪玉がね。ぜんぜん当たらないの。消えるんだよ！」
　弟妹が興奮した様子で台所に駆け込んできた。
「そうなのか？　それにしても、たくさん、友達を連れて来たんだな」
　ぞろぞろと引き連れてきた人数は二桁に及ぶ。彰尋は余裕の表情で温かく迎えた。
「おやつの心配はいらないからな。ここに大福も用意って……」
「ほんのりと温かくて美味しいの」
　女の子は半分近くを食べていた。
「それは良かった。でも、この状況は少し心配した方がいいかな」
　ぎこちない笑みのあと、彰尋は猛烈な速さで菓子作りを再開した。子供達の催促する声にせっつかれ、髪が汗で濡れ光る。
「ごちそうさまなの」
　軽くお辞儀をして、女の子はひっそりと消えた。