天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

果樹園『チエノミ』（２）

　三夜深夜子は、宣言した。
「『第一回・果物やけ食い大会』！　開催よおおおおおおっ！！」
　周囲の面々の返事も待たず、勝手に。
　彼女もまた、この状況を夢だと思っている……普段から節制を心掛けているのか、はたまた仕事のストレスでもためているのか。あるいは何かイヤなことでもあったのかだろうか？
「優勝賞品……とかは特に無いけど、良いよね？　夢だし。というわけで、よーい……ドン！」
　とひとりでぱくぱく、ぱくり！　猛烈な勢いで食べ始めた。
　実の効果は様々であり、『猫耳しっぽが生える実』やら、『酔っぱらう実』やら『巨乳になる実』やら、そんなものが一度にどかんと深夜子の身体へ現れたもので、端的に言ってカオスである。
「何コレ、私なんかすごいことになってない！？　でもまだまだ食べるぜ、こらー！」
　といった、まさしくやけ食いを横目に。鎌八まもるが隣の響タルトへ、
「やけ食い大会だって、大食い大会みたいなものかな。にゃんこたん、オレたちも勝負してみる？」
「じゃ、どっちがたくさん食べられるか、競争だねー♪」
　と言いつつタルトは、はいっ、とまもるへ果物をひとつ手渡した。
「？　これは？」
「天使と悪魔のＢＬが見られたら良かったんだけどねー。せめて、『えっちな気分になった少年たちが絡み合う実』だったらいいなーって」
「ええー……？　そんなの、オレ食べたくないなー……？」
　よりにもよって、バナナであった。
　ちなみに、
「それよりにゃんこたん、オレが勝ったら、ポニテにキスしていい？」
　とのまもるの要望には、ぺちーん！　ポニテビンタによる回答が返ってきたものの、それはそれで、まもるは喜んだという。

「な……何だこれ？」
　ぱくりと口に入れたぶどうの実は大変に美味なものの、途端に現れた変化に、まもるは動揺を隠し切れない。
　胸やお尻が、やけに重い……声が高くなり、お肌はつややか。身体のラインも、やけに丸みを帯びている気がする。
「ああ、ハズレだねー。ムッシュくんが女の子になっちゃったよ……せっかく『ＢＬな気分になる実』とか食べさせて、太陽先輩と絡ませて楽しもうと思ってたのに」
「何て恐ろしいことを考えるんだにゃんこたん……！」
　まもるが食べたのは、『性転換する実』だったようだ。何とも可愛らしい、ボーイッシュな女の子である。
「くっ……こんなことになるなら、髪を伸ばしておくんだった。これじゃポニテに出来ないじゃないか」
　とまぁ、何だかんだで楽しんでいるようではあったが……それはさておき、タルトの言った『えっちな気分になる実』を食べてしまった人は、その場に実際にいたりした。
「うっ……！？　な、なんかムラムラしてきたッス……！」
　これを機に頭を良くしてやろうと食べまくっていた、件の南波太陽である。彼はくるりと辺りを見回し、ぴたりとまもる子ちゃんを見定めると、
「そこのＹＯＵ！　カワイーッスね、オレとメイクラブしないッスか！　めくるめく愛の世界へ、快楽のロケットでトゥギャザーしないッスか！」
「先輩？　オレ男だよ？　ねえ、先輩？」
　他にもいろんな実の効果が混ざっているらしい太陽は、可愛らしい仕草で胸を抱いたまもる子へ、がばーっ！　飛びかかった。
　当然のこと、まもるは逃走を試みるものの、
「あっ！　にゃんこたん！？」
「ふわー、何だか眠くなってきちゃったよ。ちょっと膝貸してねｚｚｚ……」
　シンプルに『眠くなる実』を食べ、ころんっと横になったタルトが、さらに言うならつまりは彼女のポニーテールが、まもるの膝の上へ！
「なんてこった！　これじゃ逃げられない……！」
「ユー可愛いッスねー、オレとラブ！　めっちゃラブるッスよ！」
「ちょ、先輩？　まずい、まずいってそれは……のわーーーっ！？」

　ぴきーん！　その時深夜子の脳裏に、稲妻のような閃きが走る……まさしくそれは、天啓であった。
「こんな……こんな光景を見せられたらっ」
　目の前には楽しそうに、イチャイチャ？　と絡み合う三人の男女。膝枕ですやすやなタルトに、ずずいと迫る太陽、その板挟みになって逃げるに逃げられず、ひたすらに耐えるまもる。
「創作意欲をかきたてられてしまうじゃない！」
　ぱくりと口へ放り込んだのが『クリエイティブな気分になる実』だとは気づかず、深夜子は三人の繰り広げるその光景を、しゅばばば！　一心にスケッチし始めた……絵画の得意な彼女の筆致が描き出したのは、たいそう美しく、素晴らしい絵画であったそうな。

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