天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

桜の名所『桜源郷』（１）

「す……すごい！」
　あまりにも壮麗、素晴らしいその光景に、日々野結衣香は目を見張り、自然とそう漏らした。
　通りすがりの天使が、微笑ましそうにそんな結衣香を眺めて、
「あら、あなたも下界からいらした人？　私たちは見慣れてるけど、みんな驚くみたいねー。ここらの桜はね、みーんな万年桜なのよ。ずうっとこうして咲き乱れているままなの、素敵でしょ？」
「万年桜ですか！　はいっ、とっても綺麗です♪」
　天界に名だたる桜の名所、『桜源郷』。その威容は、訪れた人間を例外なく圧倒してしまうらしい。結衣香もそのひとりというわけだ……それほどに、凄絶な美しさを誇る場所であった。
　天使にぺこりと頭を下げてから、結衣香は延々と続く桜の樹々の中を、ゆったりと歩く。ひらひら、舞い落ちてくる花びらがちょんっと鼻先に乗っかって、彼女はくすりと微笑んだ。
　気持ちの良い陽気の中を進むと、何やらにゃあにゃあと、賑やかな声が聞こえてくる。
「ええー！　ネコジマには、そんな面白いものがあるのかニャ！」
「いいニャー、行ってみたいニャー」
「ボク、もっとネコジマのお話、聞かせてほしいニャ！」
「ははは、分かった分かった！」
　にゃんにゃか、ふにゃん！　楽しげなねこたち。
　ぐるりと周りを取り囲まれて、何やらモテモテなのは、鈴木弥次郎だった。
「さて、次は何の話が聞きたい？」
「ネコジマって、ねこがいっぱいいるニャ？　仲良くなれるかニャあ」
「『サンマサン』っていうのが美味しいって聞いたニャ！　どんな味がするんニャろ？」
「ボクは、『マンボークン』が食べてみたいニャ～……あっ、またお客さんだニャ！」
　と、ねこたちがてててっとやってきて、結衣香の手をぷにっと握り、くいくい。弥次郎の隣へ強引に座らせてしまった。
「おねえさんも一緒にお話するニャ」
「えっと、それじゃ……楽しそうなので、ご一緒しても良いですか？」
「おー、もちろんだぜ！　いやー、ねこちゃんたちにモテモテでさあ、困っちまうよなぁ……♪」
　という弥次郎は、困るどころかデレデレ。しきりに撫でてやったり、膝に乗っけたり、背中に乗せてやったり、ねこまみれ……どちらかといえばもう、至福！　といった表情をしていた。
　確かに、きらきらと輝くつぶらな瞳たちを見ていると、結衣香もまた、うっかりにんまり、頬が緩んでしまいそうだ。
「ああもう、可愛いなぁお前ら……っ！　よしよし、何でも話してやるからなー」
「私もです。代わりに、ねこさんたち。天界や、この桜についても、色々と教えてもらえますか？」
「うんニャー、もちろんニャ！」
　ふたりはそうして桜の下、ねこたちの用意してくれたお茶やお菓子をいただきながら、お花見を楽しみ、ねこたちとにゃんにゃん！　賑やかに、交流を深めていった。