天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

桜の名所『桜源郷』（３）

　なぜそもそも、天界の神々を相手に芸など披露しているのかといえば。もちろん件のナマズの神さまが持つ、黒い悪魂石の欠片だ。
「ほれほれ。ワシらをもーっと楽しませてくれたら、渡してやらんことも無いけえの♪」
　とはいえ、それも方便に過ぎないのだろう……神さまたちにとっても、にわかに天界を訪れた彼らにとっても。結局のところ、こんな賑やかな宴会を、誰しも楽しまずにはいられなかったのだ。
「さぁ。始めましょう」
「おーっ！」
　黒依アリーセに、李小麗。いわば静と動、対照的な取り合わせのふたりが届ける、小粋なリズム。
　アリーセが携えるのは、ソプラノサックス。ヴォーカル志望の彼女だが、所属する軽音楽部では、楽器の練習も欠かさず続けてきた。その成果を見せる時！
　白い翼をはばたいて、ふわりと宙へ浮かび上がり、アリーセはすう、と口を開くと。

　　　　　　　　　　　♪
　　　　　　　　　　　　始まるのは素敵なＳｈｏｗ
　　　　　　　　　　　　　　　小さな天使の可愛いＳｈｏｗ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　♪

　透き通るハイトーンも、今日はどこか弾んでいるようだ。
　奏でるのは、南米の陽気な香り漂う、楽しいスカ・ミュージック！

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　♪
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ソプラノサックスの調べに乗せて
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　くるくる回る、小麗さん
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　♪

　とはいえ今日のアリーセは引き立て役であり、観客の眼前、真正面に立つのは、小麗だ。
「ほっ！　はっ！」
　手にしたながーい菜箸の上で、くるくると回る大皿。雑技団ばりの、見事な皿回し！
「まだまだ、これだけじゃないのだ！　おりゃーーーっ！」
　加えてアリーセの演奏にタイミングを合わせ、くるりと回ったり、ぴょんと跳ねたり。そのたび神さまたちからは、喝采の声と拍手が届く。
　これだけでもお見事ではあったが、小麗はダメ押しのごとく、持ち芸？　を披露。しばし両目を閉じた後、カッ！　と開いて、
「小麗のお口に食べ物を入れてみて欲しいのだ、小麗いくらでも食べられちゃうのだ！」
　お皿を回しながらにそんな風に言うと、神さまたちは興味深そうに、宴会料理を小麗の口の中へひょい、ひょいと入れていく。
「ふんむっ」
　くるり、小麗は後ろを向いて、再びくるんとこちらを向いた……次の瞬間。ろっこんで頬袋と化した小麗のほっぺはぷっくりと膨らんで、パンパン！
「わははは、こりゃおもろいのう！」
　ナマズの神さまも、腹を抱えて大笑い。ノリノリの音楽に乗せたパフォーマンスは、大好評のようだ。
　ぱっくんほっぺの中身をぺろりと平らげた小麗へ、アリーセはいつもより弾むような笑顔を浮かべた。
「……やったわね、小麗さん♪」
「うんっ、アリーセとのコンビネーションの勝利なのだ♪」