さまよいアルク　最終章～茜色に揺れる魔導帝国ローシルテ｜リアクション

さまよいアルク　最終章～茜色に揺れる魔導帝国ローシルテ

【旅の終わり　～新しい世界】

　ぱちくり。鈴原天音はせわしなく瞬きをして、目の前の光景を見つめます。
「わ～……ほんとに、戻ってきたんだよ～」
　まぶしい青空。味わい深い街並み。少しだけ懐かしい、寝子島の風景を。
「長いような、短いような……不思議な旅だったなぁ」
　魔導帝国ローシルテの宮殿にて、一夜の歓待を受けた後に。ベルベット陛下とファシナラに見送られて、ぱちぱち、茜色の光が弾けて。旅人たちは旅を終え、故郷へと戻ってきました。
　思えば天音が、ここで最初にあの白黒猫を見つけたのが、旅の始まり。少年が言うには、ネコジマに存在する何らかの力がローシルティウムへ影響を及ぼし、アルクと引き合わせたのではないか？　とのこと。旅人たちは、その出会いが神魂による導きであったことに、ようやくにして気が付きました。
　それからすぐにも、あんな世界へ行ったり、こんな世界へ行ったり……爽快で、時々怖くて、切なくて。何だかまるで、ジェットコースターのような、目まぐるしく慌ただしい旅でした。
「でも、やっぱり……楽しかった、ね」
　恵御納夏朝がつぶやいて、スマートフォンをなぞります。
「うんうん、面白かったんだよ～♪　あ、それ、あの時の写真？　見せて見せて！」
　天音が覗き込んだ画面には、一枚の写真。みんなを集めて写した、記念撮影……そこには、猫パペットのハルくんを手にはめて、ちょっぴり涙ぐんだ夏朝も。ぴょんと飛び上がり、元気いっぱいな天音も。
　はにかむ毒島林檎も、くるくると歓喜の舞を踊る薄野五月も。肩を組む志波武道、呉井陽太に楢木春彦……苦笑いながらそこに混じった、鴻上彰尋も。胸を張る御剣刀に、微笑む小山内海も。ギター片手に熱唱するようなそぶり、雨寺凛も。目を離した隙にどこかへ行ってしまいそうなトワ・E・ライトフェロゥと、その首根っこをつかまえた夜海霧楓も。背を合わせて立つ、サキリ・デイジーカッターにオーデン・ソル・キャドーも。デブ猫がおーを頭に乗っけて、ピース！　な後木真央も、その隣でにこにこ、綾辻綾花も。全てを終えて、ふんすとドヤ顔の屋敷野梢も。子猫のブラックを抱いた八神修も、別れが惜しくてちょっぴり切なげ、けれど笑顔の鴇波羽衣も。
　皇帝、ベルベット陛下と、宮廷魔導士に復帰したファシナラ、そして彼の妻も。
　白黒猫。少年の腕に抱かれた、ご機嫌なのんびりアルクも。
　それに、旅をともにしてきた、多くの仲間たちも……みんな、みんな。みんな、みんな！　そこには、写っています。笑顔があふれているのです。
　大切な、大切な、思い出の一枚です。
「……あーっ！　アルクちゃん、どこ行くんだよ～～～！？」
　夏朝がしんみりとそれを眺めていたら、唐突に、天音がすっとんきょうな声を上げました。
「アルくん……」
　ててて、といつもの観光気分。アルクはすぐにも駆け出して、そこらにたむろしていた野良猫たちの中へとひょいと混ざり、呑気に毛づくろいなど始めました。

　少年は……皇帝はアルクを、旅人たちへと託しました。
　彼の道行きは険しく、側近たる宮廷魔導士やその盟友の力添えがあったとしても、軍部の権力は強く、容易に事が進むはずもありません。きっとそこには、小さくない危険もまたあふれていることでしょう。
　アルクの首元、茜色の宝石は今や、多くの他世界を内包する、大切な箱舟です。皇帝は頭を下げ、それを守ってくれるよう、旅人たちへと頼みました。
　たった一夜、ほんの短い時を、アルクと触れ合い……万夜にも等しい思い出を糧に、少年は立ちはだかる全ての障害を跳ねのけ、なすべき責務を全うする、その決意を固めたのです。別れの時、ぺろぺろといつまでも顔を舐め上げるアルクを夏朝へと手渡した彼の顔は、もはや少年ではなく。まさしく強大な国家を束ねていく覇気に満ちた、皇帝のそれでした。

　……とはいえ魔導帝国もまた、アルクの石の中。その気になれば、またそのうち、会いに行くことだってできるかもしれません。いつか少年が大人になって、技術もずっと進歩して……時が来たら、成長した彼が、すぽん！　石の中から飛び出して、アルクを迎えに来るのかもしれません。そしてそれは、白黒猫にとって、すぐにも訪れることかもしれないのです。
「もー、アルクちゃん。すっかり馴染んじゃったんだよ～」
「うん……それで、いいのかも」
　ぷうっと頬を膨らませた天音。夏朝はまぶしそうに、白黒猫を眺めます。
　どこかの都会に放り出してしまうのとは違って、ここはぬくぬくとした寝子島。暮らす猫たちはみんな幸せいっぱい、ごはんをくれる人にだって事欠きません。たくさんの友だちに囲まれて、きっとのんびり、ゆったり気まま。楽しく暮らしていくことができるでしょう。
　それに、旅人たちも……今はもう、何の変哲も無い寝子島の住人へと戻った、彼らだって。望めばいつだって、会いにゆくことができるでしょう。

「……ようこそ、寝子島へ。これからも、よろしくね……アルくん！」
　聞こえた返事は、やっぱり、のんびり。にゃあ、ふにゃあ！

　こうして、ひとつの旅は終わり。アルクは寝子島の幸せな猫たちの一匹となり、ぽかぽかとあたたかい日差しの下に丸くなって、ふわぁとひとつ、大あくび。
　お昼寝でひと時旅の疲れを癒したら、今度はこの素晴らしい島を巡る、大冒険が待ち受けていることでしょう。何せ我らが寝子島には、楽しいことが盛りだくさん！　いくらのんびり屋さんな彼でも、じっとなんてしていられないでしょうから。
　白黒猫の気ままな旅は、まだまだ、これからです。

＜『さまよいアルク』　おしまい。＞

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あとがき

担当マスター：墨谷幽
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　墨谷幽です。およそ半年に渡ってお送りしてきました、『さまよいアルク』シリーズ。その最終章のリアクションをお届けいたします。

　いろいろともったいつけて、ここまで引っ張ってきた謎がたくさんありましたけれど……最後に、スッキリしましたか？　それとも、まだモヤっとしてますでしょうか。良く分かんなかったでしょうか。でも墨谷としては、出すべきものは全部出したつもりでおります。
　ともかくも、アルクと行く異世界の旅は、これにてまるっと終了になりますー。
　……ああ、終わりかぁ……と思ったら、執筆途中で何度か、本気で泣きそうになりました。割とマジで。

　実は……正直に言ってしまいますとこのシリーズ、私がシナリオのネタを考えている時に、「次のガイドどうしよう……あ、お散歩するシナリオとかどうかな。気ままに歩く……食べ歩く……さまよい歩く……んっ、『さまよいアルク』って何か語感が良いな。アルクってＮＰＣの名前にでもしたら良いんじゃない？　でもこんなの誰でも思いつきそうかな……（検索）あれっ、出てこないじゃん？　これはイケる！」てな感じで、ダジャレからの出発だったりしました。
　そこから少しずつ設定を考えていって、お話を広げていって……気付いたら、いつのまにやら頭の中にちょこんと、白黒のヘンな猫が鎮座していたのでした。

　アルクというキャラクターは、変わった毛並みを除けば喋るでもなく、すっくと立って二本足で歩き回るでもなく、描写の上ではフツウの猫ではありますけれど、おかげさまでとてもとても可愛がっていただけて、嬉しい限りです。こんなにも多くのイラストまで作っていただけて……本当に、感謝の気持ちでいっぱいです。
　ただ、もしかしたらアルクとは、これにてすっぱりお別れ、というわけでは無いかもしれません。ひょっとしたら今後もどこかで、見かけることがあるかもしれません。今や彼も寝子島の一員となり、また皆さんに甘えに来たりとか、トラブルを持ち込んだりとか……なんてことも、あるかも？
　その際はまた、変わらずのんびりな白黒猫を、可愛がってやっていただけましたら嬉しいです。

　あ、ちなみに当シリーズのどこか（第一章～第五章）にて、何らかの物品なりを入手されたという方は、そのままお持ち帰りいただいたことにしても構いません。
　ただし、異世界の産物ということで、墨谷のシナリオを含む、他のシナリオにはアイテムとして持ち込めない可能性もありますので、その点にだけはひとつ、あらかじめご留意をいただけましたら幸いです。

　なお、シリーズ終了ということで、今回はご参加いただいた皆さまおひとりおひとりに、簡単ながら個別コメントのほうも送らせていただきました。
　皆さま、ここまでお付き合いをいただきまして、本当に、本当に、ありがとうございました！
　また別の機会にも、再びお目にかかれますことを、心よりお待ちしております。
　お疲れさまでした！

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