ぱちり、ぱち、ぱち。弾けた
茜色の光が再び、さまよう旅人たちを、新しい世界へと導きました。
「わ、わ! 僕、浮いてるですー!」
フィリップ・ヨソナラを包み込んでいるのは、地面から唐突に飛び出している、
茜色の光の柱。彼の身体は途端、ふわふわ、ぷかり! 空へ空へと、浮かび上がり始めます。
新鮮な感覚にちょっぴり笑顔が漏れつつも、油断すれば空中でくるりと、ひっくり返ってしまいそう。じたじたぱたぱた、必死に手足をかいて身体をどうにか垂直に安定させると、同じく目の前をじたばたと泳ぐ、
アルクの身体へ手を伸ばしてむぎゅっと腕の中へと抱き込みまして、一緒にぷかぷか。ゆっくりと上昇しながら、フィリップは眼下の光景を目の当たりにします。
「……全部、壊れてるですね……」
半ば以上が崩れ落ち、いくつかが辛うじて外観を留めるのみの、
高層ビル群。一番高いものはてっぺんが雲にも届かんばかりで、以前にはどれほどの高さを誇っていたか、想像もつきません。
かつては縦横無尽に走っていたのでしょう、
道路はあちこちが欠けて無くなり、代わりに地表を這い回っているのは、底も見えないほどに深い、
無数の地割れです。
ごろごろ、ごろろという不穏な音に空を見上げれば、
真っ黒な雲の中にはまるで竜のように稲光がとぐろを巻き、時折遠くでぴしゃりと光が走っては、恐ろしげな轟音が空気を震わせています。
地割れの中から、あるいはそのへんの瓦礫の合間から脈絡なく、黒雲へとめがけて伸びている、いくつもの、
光の柱。
言ってみるなら、終末を迎えた文明のその名残、といった風情です。
「アノー。お客様?」
「っ、わわ!?」
唐突に聞こえたのは、古いスピーカーから聞こえてくるような、ノイズ混じりの合成音声。
ちょっぴり苦労をしつつ、フィリップが首を巡らせて振り返ってみますと、
「お客様、ソチラは
ねじれた重力井戸となっておりマシテ、そのままお乗りになれバ、お客様を成層圏の外へと運ンデしまう、ということになりマス。早メの離脱をオススメいたしマスガ……自力での脱出ガ不可能ということであれバ、僭越ナガラ、お手をお貸しいたしまショウカ?
(*^▽^*)」
「……
ロボット?」
ぱちくりと目をしばたかせたフィリップの前に現れたのは、直径1メートルくらいのまん丸い球形に、これまたまん丸い液晶モニタがくっついていて、横から飛び出しているのはわきわきと動く2本のマニピュレータ。
モニタには何やら、にっこり!
顔文字のようなものを映し出した、ヘンなロボットでありました。
綾辻 綾花は周囲をぐるりと見回しまして、
「ふわぁ……!」
きらきら! 目を輝かせております。浮かぶまんまるロボットの案内で、旅人たちがどうにか安定した地面へと降り立ちやってきたところが、彼女にとって、大変に興味を惹く場所であったからです。
「デハデハ、改めマシテ……人類の英知、その結晶たる我ガ『
国立書庫』へ、ヨーコソ! 皆様は実に当館ニとって、23682年294日18時間7分41秒ぶりのお客様でございマス。私は案内役のBRU30型X5841式85DDタイプCの……えー、マァ、親しみを込めて『
Mr.ブルックス』とお呼びクダサイマセ
(゚▽^*)」
モニタにぽわんと笑顔を映して、ロボット、Mr.ブルックスはノイズ混じりにそう言いました。
そこは巨大な円柱状の空間で、外周部を余すことなく埋め尽くしているのは……本棚。おびただしい数の、本たち!
……と、思いきや。
「あら? これ、本じゃないみたいです……」
「中に何か、入ってるですね?」
アルクを抱っこしながら覗き込んだフィリップと一緒に、棚から取り出した一見本のようなケースをぱかっ、と開いてみますと、
「……これって……?」
「オヤ? お客様、もしや
RDヲ始めてご覧にナル? それはそれは、遠いところカラおいでになられたのデスネェ
Σ(゚口゚;)」
漏れ出す、
茜色の光。
薄っぺらい円状に加工された、茜色のディスクが、そこには収まっておりました。
「これらの
ローシルティウム・ディスクに記録サレテいるのは我らが歴史、科学に、文化ニ……まさしく、人類の知識の全てがコノ書庫へと収められていると言っテモ、過言では無いのデス
(`・ω´・)+」
人類の英知、その全てがここに! なんて、そんな風に言われてしまいますと、特に訪れる世界の言語に興味を寄せていたフィリップや、知識欲旺盛な綾花だって、好奇心を刺激されてしまいます。
きらきら! 目を輝かせたふたりへ、
「当館に収められてイルRDは、来館者が端末を通じて自由に閲覧イタダクことができマス。ドウゾ、ごゆっくりご堪能くださいマセ……ト、申し上げたいトコロなのデスガ
(;^_^A」
けれどMr.ブルックスは、言いました。
「実ハ、閉館時間が迫っておりマシテ。何しろ、私ノ検知機能に基づく予測によりマスト、あと4時間39分16秒後、
この惑星は内核の完全なる崩壊を経て爆発四散、消滅してしまうのでありマス。ハイ
(ノд-。)」
ぱちくり。フィリップと綾花は、揃って目をぱちぱちと数度瞳を瞬かせた後に、
「「ええーーーっ!?」」
ふにゃあ、とどこ吹く風。お気楽な白黒猫ののんびり声と、そこかしこから聞こえる雷の音の対比は、やけにシュールなものでありました。
墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
ガイドへは、フィリップ・ヨソナラさんと、綾辻 綾花さんにご登場いただきました。ありがとうございました!
(もし引き続きご参加いただける場合はもちろん、上記のシーンに寄らず、ご自由にアクションをかけて下さって構いませんので!)
前回までのあらすじと、このシナリオの概要
白黒の変わった猫、アルクと一緒に異世界を旅する『さまよいアルク』シリーズの、第四章となります。
なお第一章、第二章、第三章では、大まかに以下のような出来事がありました。
不思議な猫『アルク』と出会ったことで、異世界へと連れてこられてしまった寝子島の
住人たち。
第一の世界、清々しく美しい海と空を擁する街では豊漁祭が催されており、旅芸人
の一座や、有翼船を駆る漁師たち、空を泳ぐ空魚たちとも触れ合いました。
第二の世界、昼は熱風吹き荒び夜は険しい冷気に包まれる荒野では、とある若い夫婦の
旅路を助けました。屍人(スカベンジャー)と呼ばれる生き物たちの襲撃を切り抜け、
月と星を映す鏡面湖を駆け抜けた彼らは、過酷な環境で生きる夫婦へ希望と決意を
届けました。
第三の世界、地下洞窟をくり抜くように生い茂る地下大樹林では、ウォータースライダー
や薬草湯、豊富な木の実などを堪能しつつ、樹木人ツリーアンたちによって、ゆっくりと
した滅びへの道筋をたどる世界の秘密を知らされました。
様々な世界を通り抜けるうち、彼らはアルクの首輪に取り付けられている茜色の宝石、
ローシルティウムが、あるところでは人々の生活の礎や拠り所となりながら、また一方
では人々に滅びの脅威をももたらしていることを知ります。
謎が深まる中、アルクがにゃおうとひと鳴き! 旅人たちは再び、次なる世界へと
旅立つのでした。
上記を踏まえまして、今回アルクに連れてこられたのは、なんと今まさに滅亡の瞬間を迎えようとしているSF的世界です。
周囲の風景を見回しても、あるのは瓦礫の山ばかり。崩れたビルや道路など、文明の名残りはそこかしこに見られるものの、動くものといえば、球状の案内ロボット『Mr.ブルックス』だけ。人や動物の姿は、ひとつだって見えません。
今回はこの滅びゆく世界で、サバイバル! ということになります。案内されてやってきた『国立書庫』の内部はある程度足の踏み場はあるものの、徐々に倒壊が始まっており、立っている端からがらがらと崩れ落ちていきます。皆さんは、そうした崩落に巻き込まれないように移動を繰り返しながら、一定時間を生き延びなければなりません。
ひとつの救いとなるのは、あちこちの地面から伸びる茜色の光の柱、『ねじれた重力井戸』です。惑星の核の崩壊に伴い、乱れた重力は反転して揚力となり、上手く乗ることができれば身体は浮かび上がって、足ではたどりつけないような高所へと移動することができるでしょう。
ただし、そのまま乗りっぱなしだと、際限なく宇宙にまで運ばれてしまうのでご注意を。
また、『国立書庫』に収められている無数の『RD(ローシルティウム・ディスク)』には、この世界における人類が残した知識の全てが記録されているそうです。いわば大容量の情報メディアであり、書庫内のあちこちに設置されている端末にセットすることで、記録された情報を読み出すことができます。
もしかしたら、何か重要な情報を見つけることができるかもしれません。
ちなみに、これまでのパターンから推測するならば、惑星の崩壊そのものには巻き込まれず、その前に新たな世界へと移動することになりそうです。が、PCは基本的にこの情報を知り得ません(プレイヤー情報となります)。
建物の倒壊に巻き込まれないよう上手く移動しながら、必要に応じて情報を検索し、時間いっぱいまでどうにか生き延びてください!
アクションでできること
今回は、建物の崩落から逃れながら下から上へと移動を繰り返し、その都度隙を見て情報を収集したり、降りかかる危険に対応したり、といった形になります。
アクションには、舞台となる『国立書庫』の中で重点的に調査したい箇所あるいは見せ場として活躍したい箇所を、以下の【1】~【3】の中から1つお選びいただき、そこで何をするか、どんな情報を探すか等をご記入ください。
※なお、現地で使われている言語(文字、音声)を理解するには、近くにアルクがいる必要があります。
彼は自分で階層を移動できないので、抱っこするでも投げ渡すでも、どうにか移動させてあげてください。
【1】区画第1層
最下層の区画第1層には、主に『文学』『言語学』等に関連する情報が収められているようです。
到着当初は足場が安定しているものの、徐々に崩落が広がっており、迅速に行動する必要があります。
階層を繋ぐ階段もほとんどが崩落しており、あちこちに見られる『重力井戸』や、各人のろっこん等を用いて、高所へと移動しなければなりません。
【2】区画第2層
区画第2層には、主に『歴史』『社会』等に関連する情報が収められているようです。
この付近には、貴重な情報を許可なく外部へ持ち出そうとする不埒な利用者を排除するため、多数の『ガードロボット』が配備されています。これらは経年に伴う劣化により機能に異常をきたしており、侵入者を理由なく強制的に排除しようとします。
ロボットたちは電撃を放って相手を絡め取るトラクタービームを装備し、捕縛されたまま放置すれば、ダストシュートから建物の外へと排出されてしまうでしょう。
同行するMr.ブルックスは、これらを停止する権限を与えられていません。皆さんはこれらを避けるか、破壊してしまう必要があります。
【3】区画第3層
屋上付近の区画第3層には、主に『科学』『地質学』等に関連する情報が収められているようです。
最上層のあたりは重力の影響か、建物の構造はまだ比較的原型を留めているようです。
が、断続的に崩れた床の一部が浮遊する足場となっており、飛び移りながら進む必要があります。宙に浮かぶ足場はゆらゆらとして不安定です。
また、区画第2層にてガードロボットを全て排除できなかった場合、追撃を受ける可能性もあるでしょう。
情報は、上記以外にも探せば見つかるかもしれません(ご自由に指定してみてください)。
ただし、必ずしも有力なものが見つかるとは限りません。
その他、上記に加えて、
・不思議な猫アルクについて思うこと、疑問など
何かありましたら、合わせてお書きいただけましたら。
『さまよいアルク』シリーズとは?
寝子島に現れた一匹の猫、アルクの持つ不思議な力によって、色々な異世界を探訪していくシリーズシナリオです。
訪れることになる世界は様々で、穏やかで優しい世界もあれば、険しく危険な世界もあるかもしれません。
そうした世界を巡るうち、アルクの力に秘められた謎など、明かされていく秘密もあることでしょう。
その他
●参加条件
特にありません。どなたでもご参加いただけます。
なお、こちらの第四章からご参加いただく場合は、
・実は第一章~第三章の世界にも参加していたが、別行動をしていた。
・同じタイミングで連れてこられたが、時空の歪みにより出現するタイミングが遅れた。
・気付いたらいた。理由は良く分からない。
等々、お好きな形でご自由にどうぞ。あまり深く考えなくても大丈夫!
●舞台
異世界。文明の痕跡が見受けられる、今まさに崩壊を迎えている惑星。
そのかろうじて形を残す建造物のひとつ、『国立書庫』が舞台となります。内部の構造は巨大な吹き抜けの円柱のような形で、内側にびっしりと『ローシルティウム・ディスク』のケースを収めた棚が連なっています。
上下は積み重なる階層によって区切られており、各階は階段で繋がっているものの、建物の倒壊に伴いその大部分は崩落してしまっているようです。
あちこちには情報端末があり、ローシルティウム・ディスクをセットすることで記録された情報を読み出すことができます。
●NPC
○アルク
寝子島に突然現れた、不思議な猫。身体の右半分の毛が白、左半分が黒で、茜色の綺麗な宝石をあしらった首輪を身に着けています。
現状ではその原理や詳細は不明ながら、アルクは2つの特別な力を持っています。
・1つは、異なる世界を渡り歩く能力。
・もう1つは、世界によって異なる言語を相互翻訳し、周囲の人々へと伝える能力。
どちらも、アルクの意思などには関わらず、自動的に発動する力のようです。そうした力を除けば、普通の猫と変わりません。
ちなみに、7~8歳くらいのオス。のんびり屋で物怖じしない性格らしく、誰にでもすぐに懐きます。
○Mr.ブルックス
直径一メートル程度の球状のロボット。『国立書庫』の案内役として、来訪者を導く役割を持ちます。
実際にはもう長いこと誰かが訪れたことは無いようで、久しぶりのお客である旅人たちを前に張り切っています。調べた情報について、何かしら質問してみれば答えてくれるでしょう。
どういう原理か自在に宙を飛び、二本のマニュピレータを用いた作業はなかなかに繊細です。
丸いモニタに表示される顔文字で、感情を表します。たとえそれがプログラムされたプロセスであったとしても。
●備考や注意点など
※上記に明記されていないNPC、及び今回のシナリオには参加していないPCに関するアクションは基本的に採用できかねますので、申し訳ありませんが、あらかじめご了承くださいませ。
以上になりますー。こんな状況ですけれど、そんなにシリアスではなく、わー! ぎゃー! あぶなーい! 助かったー! とかライトなノリになると思います。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております!