推理ゲーム『ねこじま人狼』｜リアクション

推理ゲーム『ねこじま人狼』

　じじ……。
　テーブル中央の蝋燭の芯が燃える音。
　それはとりもなおさず、沈黙の深さを物語っていた。
　ゲームマスターを名乗る戸影エムアは、楕円の卓についた一同を見回し、発言を促す。
　話合いの時間は有限である。

「ははぁん……降霊会でも始まりそうな雰囲気だねぇ」
　口火を切ったのは、ショッププロデューサーだという長い黒髪の女性、九杜アメだった。
　興味深げに室内を見渡す。クラシックと言えばクラシック、廃墟と言えば廃墟、という風情だ。天井からはシャンデリアが下がっているが、明りは点いていない。おそらく長いこと灯されていないのだろう、蜘蛛の巣が掛かっているのが見える。
　部屋は薄暗く、テーブルの中央の燭台が唯一の灯りである。
「ふふ。こんな面白そうな招待状を貰えるなんて、私も少しは『島民』として寝子島に馴染めてきてるのかな？」
　そういってアメはひとり、笑みを浮かべる。
　謎の手紙に招待された十名のプレイヤーは、円卓を囲むように座っており、各々の前には温かい紅茶とクッキーが供されていた。もっとも、それらに手を付ける者はまだいない。
「人狼ゲームは経験したことあるけど面白いルールだなぁ……！」
　志波武道が軽口をたたく。が、アメがニヤッと面白そうな顔をしただけで、場がほぐれる雰囲気ではなかったので、武道はやや改まった口調になった。
「今のところ島民が五人、島民サイドが二人、占い師が三人、かー」

　武道は思案顔で、顎に手を当てる。
　ここではじめの各人の主張を発言順におさらいしておく。

　　島民：志波武道、齋藤智照、九杜アメ、木次要、八神修
　　島民サイド：大天使天吏、屋敷野梢
　　占い師：サキリ・デイジーカッター、卯木衛、四方堂真矢
　　占い師によって人狼だと占われた者：八神修、齋藤智照

「占い師が三人もいるというのはおかしいよね。どう考えても」
　アメがニヤニヤとエムアも含めた一同を見回した。
「占い師だって言ってるのは、今のところナイフ君に、ヘアピン少年に、ぱっつんちゃんの三人か」
「ぱっつんちゃん！？」
　切りそろえられた前髪を揺らして真矢は語気強くアメを見たが、アメは素知らぬ顔だ。どうやら参加者全員にあだ名をつけることで名前と顔を覚えているらしい。
　アメ曰くおさげちゃんこと、屋敷野梢が、攻撃的な視線を三人の占い師たちに向ける。
「占い師は怪しいけど囮だろーなー。狂人と吊人だけの可能性もありますし。ただ私は、本物の占い師も三人の中にいると思います。ちなみに他に占い師だという方はいませんかー？」
　梢が呼びかけるが、占い師だと新たに名乗り出る者はいない。
「占い潜伏はなさそかな」と武道。
　占い師候補のひとりであるサキリ・デイジーカッターは、透明なナイフを弄ぶような仕草をしながら、同じく占い師を主張している卯木衛と四方堂真矢を見遣る。
「占い師が三人現れるのは規定路線だね。三陣営からそれぞれ１人ずつ出てきたのだろう。この中に吊人が紛れ込んでいる可能性は高い」
「そういうあなたは？」
　やや感情的に声を上げたのは大天使天吏だ。
「あなたは占いの結果を伏せたわね。まずその結果を聞きたいわ」
「そうですよサキリさん」と梢も身を乗り出す。
「狂人じゃないなら結果をー。推理に必要ですし、一度皆は自分の役割を口にしましたし」
　これらの問いかけに頷くと、サキリは見えないナイフで真っ直ぐ正面の人物を指した。

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