怪人セブンの選択｜リアクション

怪人セブンの選択

【乗り込んだ寝子島の人々・２】

　イベントを楽しむものもいれば、イベントへ戦いに来た者もいる。
　このイベントの花形、モデルの彼女たちである。
　女性ファッション誌の専属モデル枠で参加する城山水樹もそのひとり。
　読者モデルから最近専属になったばかりの城山は、このチャンスに歓喜と不安が入り混じった複雑な感情を抱いていた。
（読者モデル時代からランウェイは立ってるけど、こんな大舞台は初めて。ましてや専属になってからの初仕事がこれって……！）
　ポーカーフェイスを装っているが、彼女の心臓は時限爆弾のようにチクタクと音を立てて今にも炸裂しそうなほど鼓動を打っている。
（本当は中止になった秋のネコジマランウェイに参加する予定だった私にチャンスをくれた事務所の社長や編集部の担当さんたちの期待に応えたい。けど……）
　ガチガチに固まった体は自分の意思に反して動こうとしてくれない。
　うまくモデルウォークができるか、今のメンタルでは不安で仕方がない。
（どうしよう、緊張してきたわ……）
「城山さぁん！　そろそろ準備お願いしゃす！」
「水樹ちゃん、チークの色はオレンジとピンク、どっちにする～？」
「すいませーん！　３着目と６着目を先方の都合でチェンジだそうです～！」
「ねぇ、ここにあったウィッグ、誰か持ってったでしょ！？　このあと使うのよ！？　返しなさいよ！！」
　不安に駆られる城山など構っていられないと言わんばかりにスタッフたちの指示や相談が裏舞台では飛び交う。
（そうね、今はとにかくできることを……）
　城山も自分の出番の準備で舞台裏をあちこち移動する。
　その途中、とある楽屋から聞くに耐えない罵声の数々が耳に入ってきた。
「もーっ！　なんで今日はこんなに髪型がうまく決まらないのー！？」
　城山はその声に聞き覚えがあった。
（あ、最近、よくテレビで聞く声よね。確か、新人のアイドルの……？）
　楽屋に張り出された出演者の名前に、そのお目当ての人物の名があった。
「ああ、壺井魅紗歌だ」
　思い出したようにその名を口ずさむ城山。
　次の瞬間、城山の顔面めがけてヘヤーブラシが高速で飛んできた……！
「ちょ……、危ないじゃない！　顔に当たったらどうするのよ！？」
　間一髪、城山はヘヤーブラシを回避すると、投げつけてきた持ち主に向かって怒鳴った。
　それに対し、魅紗歌は楽屋の鏡とにらめっこしながら答えた。
「人の名前を気安くフルネームで呼ばないで。イライラしてるのにもっとイライラするから」
「あなた、聞いてるの？　今、このブラシを私に向かって投げたわよね？　そのことについて一切の謝罪がないってどういうこと？」
　見当違いの返答に城山は我慢できずに楽屋へ上がり込んだ。
　そして魅紗歌の真後ろで仁王立ちになり、言葉を荒げた。
「人気急上昇のアイドルかなんだか知らないけど、いい気になるものいい加減にしなさいよ。あなたなんて所詮、話題作りの客寄せパンダじゃない？　これでモデル業へ進出しようとか、そんな甘い話はありえないわ。プロのモデルの仕事舐めるんじゃないわよ！」
「ああ、もう、うっぜぇなぁ！？」
　魅紗歌は突然髪を掻きむしりながら立ち上がった。
　そしてここで初めて城山と向かい合った。
　お互いの表情をここでようやく視認することができた。
「ひっ……」
　城山は魅紗歌の目を見てたじろいでしまった。
　こちらを睨む魅紗歌の双眸は、まるで今にも人を殺しそうなほどの殺意に溢れていた。
　魅紗歌は息を巻きながら城山を怒鳴りつける。
「魅紗歌がやりたいからここに立つんだ！　てめぇみたいな上っ面だけの性格ブスなんか邪魔なんだよ！　ブラシが当たりそうだった？　当然！　当たって怪我すればよかったって思ったから投げた！　つーか、髪型が決まらないのも、全部てめぇがごちゃごちゃうるせぇからだ、この腐れアバズレが！　大口叩いてる割には体がガッチガチじゃねぇか！　何がプロだ、ビビってる奴にとやかく言われたくねぇんだよ！」
　怒涛の罵詈雑言に圧倒される城山。
　時間差で怒りがこみ上げてくると、そのまま無言で楽屋を飛び出していった。
「なによ、あのぽっと出のメスガキが！　ふざけんな！　駄菓子のおまけ同然の存在のくせして生意気よ！」
　ズカズカと歩を進める城山は、いつしか思い悩むのをやめていた。
「見てなさいよ、あのウンコアイドル！　あいつ以上に完璧に今回の大役を果たしてやる。自分の持てるもの全てを全部差し出して観客を魅了してやる！」
　魅紗歌とのいさかいで吹っ切れた城山。
　まもなくやってくる自分の出番に向けて急ピッチで準備をするのだった。
　ただ、城山はふと思い返す。
（あいつ……、あの時、本気で私を殺そうとしていたわ……）
　憎悪に満ちた魅紗歌の瞳の闇は本物だったと城山は確信した。
　だが、そんなことよりも目の前の出番の準備を優先する城山は、次第にそのことに構っていられなくなり、そして忘れていった。

このページにイラストを設定する

怪人セブンの選択

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧