怪人セブンの選択｜リアクション

怪人セブンの選択

【イベント開演まで10分前】

「やっぱりあれは死亡フラグだったわ……」
「ん？　なんのことー？」
　黒依が意味ありげに溜息を吐く姿を見て、壬生由貴奈が首を傾げた。
　それに黒依は小さく首を振ってごまかした。
「いいえ、何でもないわ。それよりも、依頼内容をメーリングリストに配信しないと」
「今回も『名無』に流すのかなぁ？」
　壬生の問いに黒依が少し間を置いたあとで答えた。
「いいえ、【７】の方で流すわ。前回の『暗躍』事件で新たに加わった仲間もいるから……」
「わかったよぉ。今回は【７】のほうね。で、ありーせ。せっかくうちがそばにいるんだから、メール見るより口頭で依頼内容を伝えてほしいなーって」
「それもそうよね」
　黒依は【７】の文面を作成しながら告げた。
「先方は、大罪人の１人が見た悪夢の内容を検証してほしいそうよ」
「先方って……、まぁ、親しく呼ぶのもヘンだしねえ。それにしても、悪夢の内容の検証って奇妙な依頼だけど？　夢の内容って？」
「この船がまもなく沈むそうよ。しかも今から２時間後に」
「ええ……？」
　今度は壬生は溜息を吐いた。
「やっぱりそーゆー展開かあ。ただ話して決着ってわけにはいかないよね、セブン事件絡みだし……。で？　敵さんの見た予知夢だかなんだかをうちらが確かめろと？」
「そういうことね。でも強制ではないと先方は言ってるわ。私たちがどう出るのか、試しているのね」
「うーん、その夢の内容が本当に起こることと仮定して行動するにしても、情報不足だねえ。とりあえず、うちは待機で。動きようがないし」
　壬生は甲板に並べられたテーブルにコーラを置き、椅子の背もたれに寄りかかった。

「出番が来たらきっちり働くからさ、それまでは、おやすみ～」
　壬生は目を閉じると、すぅすぅと静かに仮眠を始めた。
　だが、コスプレ用の歩兵銃（モデルガン）をいつでも手に取れる位置に立てかけているあたり、常に気を張り巡らせていると分かった。
　黒依は壬生を起こさないようにその場を離れ、依頼内容を【７】へ流した。
　そのまま船内（４Ｆ）の特設シアター脇にある階段を下りて３Ｆのラウンジに移動した。
　３Ｆ全域はイベント一色に染まっており、パーティー会場やイベント会場、そしてその受付で賑わっている。
　招待された『名も無き英雄たち＜ネームレスヒーローズ＞』の大半の面々もこのフロアでイベントの開始を待ちわびている様子だ。
　だが、黒依の送信した【７】のメールが、『英雄たち』へ一斉に届いた。
　あちこちでメールの着信音が鳴り響く様子は、周りからしたら「こんな偶然もあるのか？」と驚くほかない。
　黒依がラウンジのソファーに腰を掛けると、示し合わせたかのように仲間たちが集まってきた。
　まるで円卓の騎士とアーサー王が今から軍議を行うかのような物々しさが漂う。
「みんな、集まってくれてありがとう」
　黒依はネクタイを少し締め直すと、背筋を正した。