怪人セブンの選択｜リアクション

怪人セブンの選択

　一方、２Ｆを探索する者たち。
　ここでは意外な組み合わせの２人が仲睦まじく探索をしていた。
「海賊のおじさんー！　こっち行こー！」
　怖いもの知らずの小学生、曖浜瑠樹が手を引く相手は……。
　髭を蓄え、鋭い眼光で曖浜を見詰める異邦人、アダム・スメルディン！
　地下倉庫で見つけたパーティーグッズで変装したアダム。
　その姿は海賊の船長だった。
　そして、偶然２Ｆをひとりで冒険していた曖浜と遭遇したのだ。
　……アニメに出てくる海賊船長のコスプレイヤーと勘違いされたまま。

　アダムは考える。
（なんだ小僧、俺を誰と勘違いしたか？）
「海賊のおじさん、無口だねぇ。やっぱりアニメの海賊とおんなじだ！」
　曖浜は白いウサギのぬいぐるみのラピちゃんをギュッと抱きしめながら笑顔を振りまく。
　大切な“ともだち”と一緒で思わず和む。
　すると彼のろっこん『ゆるゆる和みと恩恵の輪』が発動した。
　手を引かれるアダムに、心境の変化をもたらした。
（……妙だが、共に歩くと人の親となった気分だ）
　ろっこんの影響もあるが、アダムは不思議と重なる部分があったのだ。
（ちょうど俺が家族を喪ったのは彼の頃か）
　家族。
　そんな単語が今日中に浮かぶとは、彼自身も意外だった。
（……不思議な気分だ。こうしているのも悪くない、と思ってしまう）
　自然と口元が緩む。
「あ！　おじさん笑ったねぇ。カッコイイねぇ！」
　アダムは日本語は分からない。
　彼はアラビア語もしくは英語で意思疎通を図る。
　なので正確には曖浜の言葉を理解できない。
　しかし、そこに敵意はなく、好意的な感情が込められていることはすぐに察することができた。
「あれぇ？　鍵が掛かってるねぇ？　お宝が眠ってたりするのかなぁ？」
　小学生らしい発想を展開しながら、曖浜はアダムに訴える。
「海賊の船長なら、七つ道具でどんな扉も開けちゃうよねぇ！」
「……」
（俺に何かさせたいのか、小僧？）
　期待感満載のキラキラビームを両目からアダムへ照射する曖浜。
　しかし言葉が通じないのでアダムは困惑するばかり。
「……もしかして、おじさん、日本語わからないのかなぁ？　そういえば自己紹介してなかったねぇ。オレ、瑠樹！　オレ、この扉を開けたい。でも開かない。おじさん、開けて？　おーけー？」
「……リュウキ？」
　この日、初めてアダムは言葉を発した。
　それが目の前の少年の名だと理解する。
　そして身振り手振りで少年の要望も理解した。
「リュウキ……」
　退いていろ、とアダムはジェスチャーで曖浜に伝える。
　曖浜が扉の前から立ち退くと、アダムはその場でシャドーボクシングのように見えない相手と組手を行い体を動かす。
　彼のろっこんは心拍数を上げることが不可欠だ。
　例えそれが、心臓に問題を抱えるアダムの命を削ろうとも。
「おじさん、かっこいいー！」
　突然始まった格闘技の演舞に一層目を輝かせる曖浜。
（……そろそろ、いいだろう）
　心拍数が上がったことを確認したアダムは、ドアノブに手を掛ける。
　手の平の周りの空気が突然、蜃気楼めいて揺らぐ。
　実際、アダムは無色透明の炎を手指から放っているのだ。
　ガスバーナーとは比にならない熱量がドアノブを焼き切り、みるみるうちに鍵は意味を成さなくなった。
「すっごいねぇ！　モエモエの能力者だぁ！」
　曖浜は思わず拍手をして喜んだ。
（喜ばれているのか、俺の能力が……？）
　アダムの心の中で、何かが変わりつつあった。