怪人セブンの選択｜リアクション

怪人セブンの選択

　天動はカジノに入店するなり、犬神と尾鎌の前を先往かんと張り切り出す。
「こういうところでは、男性がエスコートをするものですから。なにせ生涯初めてのカジノ経験で舞い上がってるようです。でも女性の方を蔑ろにするような野暮な男ではありませんので」
「おい、そんなに人がいいとカモられるぞ、気を付けろよ？」
　天動の一生懸命さを微笑ましく思いつつ、犬神はさり気なく彼を気遣う。
「なぁ、天動。このゴールドパスで情報引き出せねぇかな？　ほら、あいつ偉そうだし、なんか知ってっかも？」
　オシャレあごヒゲの浅黒いイケメン青年を指差す。
　彼だけほかの従業員とは違い、スーツの仕立ても立派である。
　時折、装着しているインカムで指示を飛ばしている様子から、どう考えてもここの重役であることは間違いない。
「私は賛成です。万が一の際には、避難誘導もしやすくなるでしょう」
　天動も大きく頷いてみせた。
　犬神は青年に近付き、早速声をかけた。
「よお、兄さん。ちょっと話あんだけど？」
　彼女がちらつかせるゴールドパスに、青年は面倒くさそうに顔を向けた。
「あんたらがお嬢様の言ってた客人か。随分と野蛮そうな奴らだな」
「んだとオイ？」
「まぁまぁ、犬神さん。ここは私が。……すみません、あまり人を見かけで判断しないでいただけますか？」
　タレ目で柔和な表情の天動の後ろで、犬神が凶悪な笑みをたたえていた。
「……あなたがどうなっても知りませんよ、私は」
　あはは……、と苦笑いする天動に、青年はすっかり気圧されてしまった。
「チッ。……申し訳ございませんでした。失言をお許し下さい」
　青年は態度を一変して恭しく頭を下げた。
「して、当カジノにどのようなご要件がおありで？」
　青年の肩に犬神は腕を回してニヤリと笑う。
「この船のどこかによォ、爆発物が仕掛けられたって話だぜ？　おっと、闇雲に公表するなよ。パーティーが台無しだからなァ？　ギャハハハ！」
　この言葉に、青年の顔が途端に青ざめる。
「どこに仕掛けられているか分かりませんので、調べさせてください。それと、先程、サンマの着ぐるみの人物を見かけませんでしたか？　容疑者なんです」
　天動の問い掛けに、青年は必死に記憶をたどる。
「そういや、さっきそんな奴がいたな。ポーカーでボロ負けしてイカサマだと喚いてたから叩きだしてやった。まぁ、ここじゃよくある光景だからな、気に留めてなかったぜ」
「それって暗にイカサマしてますってことじゃねーか？」
　呆れ返った犬神である。
「とにかく、調べさせていただきますね。不審物があった場合は、すみやかに避難誘導の手配を願います」
「かしこまりました……」
　青年はインカムで何やら指示を飛ばし始めた。
　犬神と天動は、早速カジノの内部を探索することにした。

　10分後、店員たちの協力もあって捜索は無事完了。
　計２個の発火装置と思しき装置を回収した。
「急いでほかの場所も調べようぜ。そういえば風雲児がレストランを捜索するって連絡があったな？」
「行ってみましょう、犬神さん」
　２人はパーティー会場のレストランへ足を運ぶ。
　その背中を見送るカジノ責任者の青年……は白衣を着込んでほくそ笑む。
「さぁて、僕ちゃんも動き出そっかなぁ♪」