怪人セブンの選択｜リアクション

怪人セブンの選択

　さて、局面が大きく動きそうな頃、後木真央は迷走していた。

「マヂなのだ～！？　こんなこともあろうかと準備はしてきたけどっ」
　後木は泉月花からの依頼内容を聞いてからというもの、混乱して船内をウロウロしていた。
「嫌な予感はしていたのだ『映画好きの叔父貴の影響で船に乗ったらスマホの電波の届かない所に連れて行かれて爆破沈没じゃね？』と思っていただスマホ以外にデジカメその他もろもろを着替えと一緒に赤猫リュックに突っ込んで参加したのは死亡フラグだったのだ～！！」
　今にも心が折れそうな後木は、唐突に暗い夜の海を眺めて涙を流す。
「やべーのだガチ沈みそうなのだ、きっと犯人は泉月花の専横にムカついた傲慢が色欲辺りと手を組んで『処す？　処す？』的ノリで仕組んだに違いないのだとばっちりなのだ～！　うぅぅ、死ぬ前に満漢全席を制覇してみたかったのだぁ……」
「今生の心残りがそれか……」
　膝から崩れ落ちて涙を流す三毛猫の真央に、サンマさんの着ぐるみを来た強面の男が溜息を吐いた。
　……我々は、この男のことを知ってる！
「うにゃ～！　満漢全席だけじゃ足りないのだ食キングとしてギネス記録に爪痕を残すまではやっぱり死ねないのだ助けてＤさんなのだ～！？」
「だからＤさんじゃねぇよ。俺は『代田大吉』だって言ってるだろ、ったく……」
　この男はメサイアメンバーのＤさんこと代田大吉。
　顔立ちは鬼のように凶悪だが、心は優しく口が軽い。
　そのため、最近では『名も無き英雄たち』のお助けキャラになりつつある愛すべきオッサンだ。
　後木は作戦会議の後、思考回路がショートして船内を駆け回っていた。
　闇雲にイベント会場へ突っ込んだところ、サンマさん姿の代田と激突してしまった。
『助けてほしいのだ助けてほしいのだ手助けプリーズなのだっ！　フッ、絶対避難道具にも置き土産があるのだしかしそんなところに独りで行ったら死を招くのだっ！　泉月花ラブのＤさんならほぼお仲間になってくれると思ったのだお手伝いぷりーずなのだ！』
　勢いに負けた代田は、後木に半ば強制連行される形で同行している。
「あと俺は泉月花ラブじゃねぇからな？　誘拐の時は俺たちだって脅迫されてたんだから仕方がなかったんだからよ」
「Ｄさんはツンデレ真央ちゃん知ってるのだ」
　後木は恐ろしい程の真顔で答えた。
　強面の代田、後木のマジカル★リリカル★フリーダムぱわーに白旗を振らざるを得ない。
　後木との遭遇で、代田が設置する予定だった発煙装置の設置は半分も果たされなかったことも注目すべきことだ。
　だが後木本人はそれに全く気が付いていない。
　この天然ボケぶりはある意味、最強と言っていい。
「俺のほうが助けてほしいんだが！？　誰か、こいつを止めてくれ！」
　後木の四次元マイペースに観念した代田の叫びが虚しく船内に響く。
　すると、彼の背後に緑髪の殺戮者が音もなく忍び寄ってきたではないか……！
「ゴヨウだ！　ゴヨウだー！　助けてと言われたら駆けつける！　って、あれ？」

「ドーモ、Ｄ＝サン。ご無沙汰してます。ワリタリーヌです」
　ワリタリーヌさんっこと桜庭円が丁寧にお辞儀をした。
「ど、どうも、俺は代田大吉っていう名前があるんだ。そっちで呼んでくれ」
　ビビリながら代田はお辞儀をした。
「オジギをした大吉さんは奥ゆかしいので敵にあらず。ユウジョウ！」
　桜庭は代田と無理やり握手をすると、激しく上下に振り回すのだった。
　こちらもこちらでフリーダムだった。
『まどかちゃん　だいださん　こまってる』
　数分前に合流した小山内海が桜庭の暴走に歯止めを掛ける。
　桜庭と後木という強力なダブルボケ担当にも負けずに小山内は筆談で果敢にツッコミを入れているのだ。
　ケナゲ！
　と、この茶番を聞きつけて、ある人物が歩み寄ってきた。
「……あら？　誰かと思ったら円じゃない？　そっちは真央に海？　あなたたちも来てたの？　偶然ね」
　灰色の脳細胞で事件を解き明かす名探偵コスプレをしたブリジット・アーチャーが目を丸くしていた。