怪人セブンの選択｜リアクション

怪人セブンの選択

　日登美はむいみの主治医だといった。
　マスタードカラーのミディアムハーフアップヘアにくわえタバコ、ヒョウ柄のアンダーリムのメガネ、極め付けは背中に『どすけべ野郎★一番星』と刺繍が入った白衣を羽織った高身長の変質者が、よもや大真面目に医療行為を始めるとは思ってもいなかっただけに英雄たちは戸惑いを隠せない。
「僕ちゃんは割とオールマイティでね？　内科全般・外科全般、更には精神科と幅広くカバーしてるんだよん。本来は外科医なんだけど、色々と経験する機会に恵まれて、今じゃオールラウンダーとして大活躍ってわけ♪」
　日登美はむいみへ薬剤が入った注射器を使用したあと、素早く止血を施した。
「疑ってるかもしれないけど、ちゃんと医師免許は持ってるんだなぁコレが。今は教団専属医が肩書き……はい、これでよし！」
　注射や止血の手際は驚くほど鮮やかで、手馴れているのが素人目でも判断できる。
「で？　黙示録のことだっけ？　むいみちゃんの病気のことも関わってくるから、一緒に教えてあげちゃう！　僕ちゃんチョー親切ゥー！」
　日登美のテンションに誰もついていけない。
　さっきまで邪悪な笑みを浮かべていたエレノアも、マムシに睨まれたアマガエルめいて萎縮しているではないか。
　つまり、ここから先は日登美の独壇場であった。
「まず、ねむる君の質問に答えてあげる！　むいみちゃんは『怠惰廃人』か？　答えはイエスッ！　大正解ーッ！　ヒュー！！　芽森白山が何を思ったのかわからないけど、勝手に三夜湖の松の木の根元に埋めちゃたもんだから大変なわけ。むいみちゃんが自分の神魂エネルギーを上手く制御できなくて困っていたとき、『怠惰』の黙示録に選ばれたんだよ。信じられないだろうけど、黙示録にはそれぞれ自我があって相応しい宿主を探すのさー。でさ、『怠惰』の黙示録の特性はもう知ってるよね？　そう、『禁止』だね。むいみちゃんは自身の神魂エネルギーを『禁止』することで日常生活を送っていたんだ。今年の夏までは、ね？　でも黙示録をなくしてからはご覧のとおり。神魂が彼女の体の中で暴走して、抑えていたツケが一気に吹き出したんだ。あとはご覧のとおり、フツウとは程遠い身体になっちゃったんだよ。紫水晶は『怠惰』の黙示録と同じ石でさ、これってむいみちゃん自身が黙示録に変化しているとしか考えられないよね。だから黙示録を破壊するなんて馬鹿げたことは考えないほうがいいよん？　黙示録のバックアップ的存在の『大罪の器』たちも、きっと命の危険に晒されるだろうからねえ？　ああ、僕ちゃん愛しのナナちゅわんがむいみちゃんと同じような症状を訴えないのは、たぶん、彼女の中で嫉妬心が薄らいでるんだろうねえ？　罪人じゃなくなったってことだ。平和な寝子島で平和ボケしたおかげで、大罪の娘の器量を失っちゃったワケだ。いやぁ、なんてもったいないことを！　殺すことしか知らなかった純粋無垢なところがたまらなかったのにぃ！　あれ？　なんの話してたっけ？　えーっと、あーそうだった、黙示録ってなんじゃらホイって話だったねぇ？　要はさ、黙示録って寄生虫みたいなもんでね、宿主の神魂エネルギーを食らって成長する無機質生命体だと考えてよ。宿主にとんでもないチート特性を１つ授けるけど、それを失ったときのバックファイアは命に関わるってコト。そして完全に黙示録が成長すれば、時空を貫くほどの無尽蔵のエネルギーが生成されるのさー！　すごくね？　つーかやばくねコレ？」
　日登美は白衣のポケットから黄色に輝くシリトン鉱石を見せびらかした。
「これが僕ちゃんの黙示録！　キレイでしょ？　真ん中に穴があいてる理由は……既に知ってるよね？　前回、メサイアのリーダーから聞き出した人達がいるっぽいし？」
　日登美の情報把握ぶりに英雄たちは舌を巻いていた。
「というわけで！　わけのわからぬことばかり～話してるうち～にお別れよ～♪　また会う日～まで～！　ちゃららら～ヘイッ！」
　急に歌いだした日登美は唐突に特等室を出て行ってしまった。
　……まるで嵐のようなひと時であった。
　この時、御剣だけがこっそりと日登美のあとを追っていったことに、他の面々は気が付いていない。