Xmasの奇跡☆　物語の素敵な１日 in 寝子島！｜リアクション

Xmasの奇跡☆　物語の素敵な１日 in 寝子島！

●因幡の白兎

　寝子島の冬の海は、とても風情がある。
　海岸線を歩きながら、ふふとピーター・ビアズリーは笑ってしまう。風情か。私もいい言葉の選択が出来るようになったもんだ。ちょっとはかみさんに誉めてもらわないと。
　そんな事を思いながら浜辺の風景を楽しんでいると、佇む人影が目に入った。白いパーカーを着た、紅い瞳の少年だ。砂浜に座ってじっと海を見つめている。
「う～ん、絵になるねぇ」
　少なくとも私のようなおじさんよりはねぇ。ピーターはのんびりと少年の方に足を向けた。

「こんにちは」
「…こんにちは」
　ピーターが声をかけると、少年は顔を上げ、また海を見つめる。ピーターも少年と一緒に水平線を眺めた。
「海が好きなのかい？」
「ううん、嫌い」
　え？
「嫌いなのに海を見てるのかい？」
「……僕、島から出たいんだ」
「島から？」
「うん。何とか泳いで仲間のいる因幡の国まで帰らないと」
「泳いでか……。それは、大変そうだねぇ」
　イナバノクニってどこか、今度かみさんに訊かなくちゃなと思いながら、ピーターは少年に微笑んだ。
「私も遠い国から来たのだけれど、さすがに泳いでは来なかったねぇ」
　少年が目をまん丸くしてピーターを見た。
「泳がないでどうやって海を渡ったの？　あなた神様？」
「神様？　いや、私は船旅が好きでね。海を泳いで行こうとはさすがにうちのかみさんでも言わなかったねぇ」
「舟……。僕には作れない……」
　少年はまた暗い目で海を見つめる。その思い詰めた様子がピーターは気になった。
「少し気分転換でもしたらどうだい？」
「え？」
「寝子島は君が思っているよりとてもいい所だよ。そうだ。観覧車に乗らないかい？　島全体が見えて気持ちがいいよ」
　カンランシャ。少年は不思議そうに呟いた。

「人が、いっぱいいる……！！」
　観覧車の窓にへばりついて、少年は夢中になって外を見ていた。
「今はクリスマスシーズンだから人出も多いねぇ」
　ピーターも久々に見る空中からの景色を楽しんでいた。
「ほら、あそこが私達がいた海岸、あそこが駅、今日は九夜山がよく見えるねぇ」
　少年はピーターの説明を黙って聞いていたが、突然ぽろぽろと涙を零し始めた。
「……何かつらかったのかい？」
　ピーターの言葉に少年は黙って何度も頷く。ピーターは何も言わず、少年の傍にいた。
　観覧車がゆっくりと回る。窓から見える空は、どこまでも青い。しばらくすると少年は紅い目をもっと真っ赤にさせてごしごしと涙を拭った。
「あなたは、大事な人がいる？」
「ああ、いるよ。今ここには住んでないけどねぇ」
「でもこれだけ人がいれば寂しくないでしょ？」
「ああ。友達も出来たしねぇ」
　ピーターはそっと少年の頭に手を載せた。
「……僕？」
「迷惑かい？」
　少年はふるふると首を振ってピーターを見た。
「ありがとう。仲間と離れてから、こんなに嬉しかったのは初めてです」
　そう言ってふにゃりと笑う。そこに今までの暗さはなく、少年らしい笑顔だった。
「……海が、綺麗だねぇ」
　ゴンドラがゆっくりと降りていく。ピーターと少年は陽がきらきらと輝く海面をいつまでも眺めていた。

「ありがとうございました。僕、もう行かなくちゃ」
「仲間のところにかい？　泳いで？」
「泳ぐのはやっぱり無理そうだから、もうちょっと考えてみます。元気が出ました」
「そうか。みんなに会えるといいねぇ」
「はい」
　そう言ってぴょこんと頭を下げると、少年は駆け出し、もう１度ピーターを振り返り手を振った。
「ありがとう、神様！　僕と、友達になってくれて！」
　そして人混みの中に消えて行く。ピーターも彼が見えなくなるまで手を振ると、ゆっくりと歩き出した。
　―――何だか、無性にかみさんに会いたい。