恐怖！　○○しないと出られない部屋！｜リアクション

恐怖！　○○しないと出られない部屋！

　御剣刀は一通り抗議が出尽くしたタイミングで、満を持して声を上げた。
「こんなのってないぞ……キリンマスクいい加減にしろよ……」
　怒気をはらんだ御剣の鋭い視線がモニタの中の夢魔を射抜く。
　まさか、と周囲の者は固唾を呑んだ。
『葉っぱ１枚でごあんしん』『夢オチでなんか怖くない』『カオス重点な』のこの状況でバトル案件が発生か？
　だが御剣は次の瞬間、オエッとその場でえづいた。
「うっぷ……、嫌な事を思い出した……」
　記憶の底に封印していた忌まわしき事件が御剣を苛む。
「なぁ、キリン野郎。本当に夢だよな？　なぁ、これは夢だ！　夢だろう！？　なあ夢なんだろこれ！？」
　御剣はこの極限状態で既にSAN値（正気度）が失われていたのだ。
　発狂！　ここにもう１人の悪魔が誕生した。
　開き直りともいう。
「キスをすれば出られる？　把握、じゃあキスするか」
　御剣の表情は解脱した仏のごとく神々しかった。
「そんな気軽で大丈夫か？　大丈夫だ、問題ない。既に最悪を経験してるからな、あれ以上の事はない！　大体一回も二回もそれ以上も一緒だろ！！」
　フシューフシューと毒蛇のように品定めを始める御剣。
　キス魔と化した御剣に、周りの者は同じことを考えた。
（ツッコミのお前がボケに回ったら収拾つかねーぞこれ……！！）

「御剣が闇落ちしたか……」
　同じく閉じ込められた橘勇は、変わり果てた御剣と思わず距離をとった。
　そして、いままでの経緯を反芻していた。
「ありのまま今、起こった事を思い出す。『俺はバイトが終わって自宅に帰って、日課の柔軟と筋トレをして飯を食って風呂入って寝たら、ここで目を覚ました』。何を言っているか自分でも分からない……」
　しかし神魂の影響で納得してしまう自分の慣れに驚いていた。
（しかし見覚えのある顔がちらほらと、って、大半が寝子高生か。こんな状況でも積極的に動く面々もいるだろうし暫く観察するのも悪くない手か）
　橘はしばらく静観を決め込むようだ。
（決して人間関係がどうなってるかとか誰がどういう趣味をもってるか観察するためじゃない、断じてな）
　そう言い聞かせながらも、早くも意外な人間関係を観察できる事にワクワクしていた。
（ん？　あいつ、何やってるんだ？）
　部屋の隅でしきりに何かを調べている少年が居た。
　気になっていてもたってもいられず、橘は少年に声をかけた。
「何やってるんだ？　……なんだ、副会長か」
「副会長じゃなく八神で良いよ」
　八神修は笑いながらそう返した。
「俺は勉強が終わって普通に寝ていたはず……なんだがな。気が付けばこの部屋の中だ。ここがどういう部屋なのか、何事も裏を取らないと気がすまないタチでな？」
「そうか、俺も手伝おう、八神。」
「助かるよ、橘。夢の中だから、イメージすると道具が自然と出現するぞ」
　八神は何もない空間からメジャーを取り出してみせた。
「随分と便利だな」
「だろう？　この壁、実際に触れられるし、材質も現実世界にありそうなモノで出来ているみたいだ」
「悪い、八神。ちょっと気になることがあるんだ」
　八神の考察を一旦遮る形で、橘が疑問を投げかけた。
「とりあえず夢魔のビリーを名乗る奴が提示したのは『誰かにキスをする』ことだ。これは、『すれば』帰してもらえるわけだが……、ならば『された』方はどうなるんだ？」
「……確かに、それは非常に気になるな」
　八神も同意した。
　橘はモニタを盗み見ながら小声で囁いた。
「捻くれた考え方かもしれんが『された』」方が帰れないとしたら、……それに対しても考えないといけないな」
「……そうだな、相手の条件を鵜呑みにできない」
　八神と橘はしばらく部屋の調査に勤しむのであった。

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