恐怖！　○○しないと出られない部屋！｜リアクション

恐怖！　○○しないと出られない部屋！

　他にも、この部屋に閉じ込められて動揺する者たちが大勢いた。
（わ、私のファーストキスが……！）
　深縹露草は羞恥に身を震わせていた。
「キス……と想像するだけで恥ずかしいデース！？」
　思わず叫んでしまうくらい恥ずかしかった。
　なにせ彼は物心づく頃にはバイト三昧＋部活に没頭、異性と付き合った経験はゼロ、手を繋ぐのすらドキドキというほど初心なのだ。
「いやそれは兎も角、皆様は無事脱出できるでしょうか……？」
　だがすぐに気持ちを落ち着かせて、自分よりも他人の心配をするあたり、彼のひととなりが分かるだろう。

　部屋の壁に寄りかかって、先程からぼーっとしているのは白峰さくらだ。
　彼は中高生にはちょっとは名が通るイラストレーターで、最近ではライトノベルやティーン向け雑誌の表紙絵や挿絵を描いている。
　普段の彼は飄々とポーカーフェイスで物怖じしない性格なのだが、この時ばかりは放心してしまうほど焦っていた。
（ええと、マズいことになりましたねえ……。たとえここが夢の中だとしても、一刻も早く目覚めなければなりません）
　白峰はビリーに向かって願い出てみた。
「すみませんが、明日の朝が〆切なんです！！　〆切をブッチしてしまえば信頼関係にも響きますし、なにより仕事が溜まる焦燥感に勝てません……！　あたしだけでも見逃してくれませんかねえ？」
「キスしたら出してやるぜ？」
　しかしビリーに一蹴されてしまった。
　がっくりと肩を落とす白峰はふと、こんなことが頭によぎった。
（気づきませんでした、あたしも意外とメンツを気にする性分だったんですねえ……）
　だが、自分の新たな一面に感心している場合ではなかった。
（……見事に青春真っ盛りの少年少女ばかり、さてはて……？）
　白峰は頭を抱えてしまった。

「え、えぇ……！？　誰かとキスしないと出れないって、そんな無茶苦茶な……？」
　千鳥雅人はろっこんで勝手に動くアホ毛『エモーションアンテナ』をブンブン振りながら右往左往していた。
「夢の中だからって軽はずみにキスなんてしちゃダメなんだよー！　そういうのは好き合ってる人同士でするものなんだよー！」
　ビリーへの抗議の声も、キリンマスクの夢魔の前では馬耳東風である。
「あ、でも、よく考えたら……」
　ここで千鳥はあることに気が付いた。
「ここから出れないってことは、ずっと眠ったままってことだよねー？　寝るのは好きだけど、起きて皆と遊んだりできないのはヤだなぁ……」
　千鳥の言葉に、部屋に閉じ込められた者たちに戦慄が走る。
　モニタの中のビリーが拍手で讃えていた。
「オゥオゥオゥ、よく気が付いたな、チビッ子！」
「チビじゃないよぉ！！」
　千鳥の身長は163cm。
　アホ毛をピンと立たせているのは、体を大きく見せるための威嚇行為なのだろうか。
「だからって、キス……。それ以前に、恥ずかしくてそんな事できないよー！」
　周囲の女子の顔を見て、千鳥は顔を真っ赤に茹で上げていた。
「別に異性以外でも有効だぜ！？」
「男相手？　もっとヤだよ！」
　ビリーの甘言を涙目で突っぱねる千鳥だった。

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