【お三夜】寝子島らんちゅう品評会〜お猫様はご遠慮下さい〜｜リアクション

【お三夜】寝子島らんちゅう品評会〜お猫様はご遠慮下さい〜

【はじまり】

「す、すまん。手伝ってくれ！　俺たちのらんちゅうを一緒に守ってくれ！」
「わかった！　ちょっと待っててくれ！」

　救いを求める言葉にすぐ反応したのは、愛好家達ともにらんちゅうを鑑賞していた三夜智蔵だった。
　辺りを埋め尽くさんとする猫の集団を見て、必死に頭を回転させる。

　三夜はらんちゅう愛好会に所属しているわけではなかったが、アクアリウムを趣味としている。そんな彼にとって、年に一度のらんちゅう品評会は癒しの一つだった。
　アクアリウムとらんちゅう飼育はかなり異なるのだが、その根本は同じだと思う。
　仕事をしながら小遣いをやりくりして少しずつ設備を充実させ、魚を慈しみ育て上げるその気持ち。
　アクアリウムなら、水槽の中に自分の理想の水環境を描き出す。
　らんちゅう飼育なら、自分の理想の姿形をしたらんちゅうを育て上げる。
　それは飼い主にとって世界の構築なのだ。
　その手間。その想い。眺める時の心の充実感。
　だからこそ他人事ではなかった。
　思い出す。かつて自分が作り上げたアクアリウムの中にザリガニが投入されたときのことを。
　全ての魚達が姿を消してしまった。自分の世界が汚された。あの無念と怒りを。
　そんな思いをこの男達にさせたくはない。
　
「俺の家、近くにあるから鰹節とって来る！　それまでなんとかしのいでくれ！　そこの巫女さんに、お嬢さんも頼む！」
「はい。分かりました。社務所にもマタタビとかありますから、ちょっと行ってきます！」
「え？　ええ。分かったわ。とりあえず私は金魚の方へいくわね」

　猫だらけの状況に直面して唖然としていた巫女姿の御鏡聖は、かけられた声に帚を抱えたままきびすをかえした。
　日課のウォーキングで神社にいた城山水樹も慌てて動きだす。
　三夜は猫達を踏まないように気をつけながら包囲網の外に出ると、久方ぶりの全力疾走で石畳の参道を駆け下りた。
　
　ここでやらねば男が廃る。
　三夜智蔵、アクアリウム魂の見せ所だぜ！
　
「何かあったんですかー？」
「猫猫猫だよ！　境内が猫だらけでらんちゅう様がえらいこった！」
「猫、ですかー？」

　道中あまりの必死ぶりを見てかかった声に、なりふり構わず答えを返して走り抜ける。
　この律儀な応答が救いの呼び水となることに、三夜は気がつかなかった。

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