お三夜まつりが近づくといろいろなイベントが行われる。
当然、寝子島神社に祀られているお三夜大明神にあやかって、猫がテーマになっている事が多い。
しかし、たまには例外もあるのだ。
その日、寝子島神社の境内には静かな緊張感が満ちていた。
一列に並べられた洗面器。お社に近い上座の器には『大関』と書いてある紙が貼られている。
そこから順に相撲の番付通りにランク分けされているのが見て取れた。
周りを囲むのは、歳は少なくとも40代以上だろうと思われる男達。
和やかに談笑しながらも、どこか互いを探るような目をしている。
少し痩せた男性がゆっくりと近寄っていくと、男性達は一瞬緊張したようだった。
男は周りを見渡し静かに宣言する。
「それではこれより、寝子島らんちゅう愛好会、第20回秋の品評会を行います」
控えめな中に熱がこもった拍手が響き渡った。
金魚の中でも特に愛好家が多いとされるらんちゅうは、品評会文化が最も根付いている品種だ。
白い洗面器に泳がせそれを上から覗き込んで、形や色、泳ぎの優雅さを見定める。
評価の高いらんちゅうが上位の洗面器に移っていき、最終的に大関が決まるようになっている。
愛好家達は、この日のために精魂込めてらんちゅうを育てる。
餌を厳選し、水温水質に目を光らせ、毎日らんちゅうの様子を観察する。
食が細くなれば水温や餌の量を調節し、余りに大人しかったり暴れるように泳げば病気を疑い、病と決まれば必死に看病する。
雨の日も、風の日も、飼育池を見守る。
その様、まさに母のごとし。
そうして育て上げた我が子のようならんちゅうの晴れ舞台が品評会なのだ。
側には屋台も出ているし、稚魚の即売会があったり、関連する小さなイベントが行われることも多い。
愛好家達にとっては一年の総決算の日であり、祭りとも言えるだろう。
まるで遠足前の子供のように、この日を待ちこがれる者も多いのである。
しかし、今年は最も過酷な品評会として寝子島らんちゅう愛好会の歴史に記録されることになった。
「な、何だ、この猫の数は!」
境内に響く悲鳴に近い怒号。その叫びを打ち消す猫の鳴き声。
夢中でらんちゅうを眺めていた男達は、無数の猫に周りを囲まれている事に気が付かなかった。
男達は戦慄を覚える。
猫の集団は明らかに狩人の目で洗面器を見据えていた。
我が子とも思えるらんちゅうを守らねばならない!
しかし状況は明らかに劣勢だった。お猫様にだって怪我をさせるわけにはいかない。
まさに多勢に無勢。四面楚歌。
男達はなりふりかまわず叫ぶ。
「す、すまん。手伝ってくれ! 俺たちのらんちゅうを一緒に守ってくれ!」
たまたま居合わせたあなたに声をかけるほど、状況は切羽詰まっていた。
シナリオガイドをご覧下さいまして、ありがとうございます。
ゲームマスターを勤めさせていただきます、阿都(あと)と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
寝子島では猫は大切な存在。折しもお三夜まつりの真っ最中。
当然、猫一色の寝子島ですが、……たまには例外もあるのです。
年に一度の寝子島らんちゅう品評会は、今まさに風前の灯。
狩猟本能および遊び心に支配され、異常に興奮した状態のお猫様たちに狙われ大騒ぎです。
ぜひ皆様の知恵と力で、らんちゅうを救ってあげて下さい!
・ここはやはり撒き餌だ。猫ちゃん、こっちこっち!
・悠長なこと言ってられない! まずは防衛ラインを築く事が先よ!
・猫の本能を押さえるなんて、そんなお猫様をも恐れぬ大罪、私にはできません。
・祭りだ祭りだ! 一緒に騒いで遊んじゃえ!
……いろいろなアクションをお待ちしておりますが、何年もかけて育てるらんちゅうの飼育者の気持ちをくんで、なにとぞ守ってあげて下さい。
それでは、ご参加お待ちしております。
どうぞよろしくお願い申し上げます。