終焉幻想曲　NO.222｜リアクション

終焉幻想曲　NO.222

　落雷の衝撃に地面が震えている。
「あー、ごめんなのだ」
　それとも、震えているのは自分自身だろうか。
　それすらも判別つけられまま、後木真央は震える頬をごしごしと両手で擦る。指先も、頬も、ひどく冷たい。
「ちょっと寝落ちたのだ、夢見てたのだ」
　傍らから心配そうな眼差しを向けてくれる八神修にちらりと笑って見せる。
　二段構えな夢を見た。温かで残酷な夢のその前に、寝子大橋で化物たちになぶられ死んだ。口の中に血の味がする気がして、真央は夢の中で大穴空けられた腹を両手で押さえる。
　陸上部Tシャツにも、羽織った学校ジャージにも、もちろん自分のお腹にも、穴なんて空いてはいない。
「問題ないか」
「大丈夫なのだ平気なのだ」
　地面に投げ出していた赤猫リュックを背負い上げ、逃げる最中に辛うじて手に入れた金属バットを握り締める。
　夕暮れよりも赤く黒く染まった空に舞い飛ぶ翼持つ化物達が、住み慣れた町を破壊して回る地を這う化物達が、空気を震わせて咆哮する。

「武器が必要だな」
　倒壊した民家の端で拾った大型スコップを肩に担ぎ上げ、修が呟く。
「なら、消防署か警察署、なのだ？」
　真央は近隣の地図を頭に思い描く。
「そうだな……拳銃でもゲットできれば」
　目的地までの最短距離を計算しつつ、修は顎を引く。厳重に保管されているだろうが、保管庫はろっこんの力を使えば『分解』できる。
「拳銃より斧の方が使いやすそうなのだ」
　真央は警察署で手に入れるべきものを定める。高校で射撃部にも所属していたとは言え、本物の反動を逃せる気はしなかった。となれば、例えば緊急救助用の小型の斧が使いやすいかもしれない。車体を叩き斬る用途の斧であれば、きっと充分な武器になる。
　そうと決まれば、と真央はろっこんを使って三毛猫のがおーを召喚する。フツウでない世界で、いつも通りのそりのそりとどこからか現れ、面倒くさそうに欠伸してみせる猫の相棒をぎゅっと抱き上げる。
「ナニカが居れば教えて欲しいのだ」
　ふくふくの腹に鼻先を押し付けるようにして頼み、先に立たせる。
「がおーと真央ちゃんが先行するのだ。修ちゃん、ナビお願いなのだ」
　言うなり歩き始める真央を止めようとして、修は止めようとした言葉を小さな息にかえる。朝夕と走りこんで体力はついてきてはいるものの、陸上部にも所属する真央の瞬発力にはおそらくまだ敵わない。
「ああ、頼むよ」
「任せるのだ！」
　親友の言葉に力強く頷き、真央は瓦礫が散乱する町を足早に進み始める。空に喚声あげるナニカも、町のあちこちを破壊して回り、人々を襲うナニカも、変わり果てた町も、何もかもが怖かった。
　絶望に目が眩んで立ち竦みそうになる心を、
（コンビニでまたたびメイトや飲み物を漁るのだ）
　とりあえずは食欲に誤魔化す。
　背負った赤ネコリュックがいっぱいになるまで、食べ物を詰め込もう。レジにありったけのお金を置いてゆこう。萎みそうになる心を必死に励まし、真央は足を踏み出す。