終焉幻想曲　NO.222｜リアクション

終焉幻想曲　NO.222

　天空に伸びて行くような蒼の色していたステンドグラスは無惨に破れ、天窓からは毒々しい暗紫色した雷雲蠢く夜空ばかりが見える。
　礼拝堂の石床に毛布の一枚も敷かず大の字に転がり、志波武道は月さえ見えぬ終焉の空を瞳に映す。
（一日、何とか生きられた）
　夜に轟くナニカの咆哮は、今は遠い。
（警戒はいるだろうけど休めそうかなー）
　ついさっきまで、礼拝堂の隅のあたりから聞こえていた誰かの嗚咽は、今は聞こえない。泣き疲れて寝入ってしまったか。
　空に閃く雷光が酷く眩しく思えて、瞼を両手で覆う。化物たちに負わされた傷の痛みに喘ぐ人々をろっこんの力宿る手で突き、死に至る痛みを和らげた、手。痛みを和らげ、痛みによる死の恐怖を幾許かは奪えても、癒すことの出来ぬ己の力。
　掌は、知らず拳になった。
　零れ落ちた吐息は、けれど己のものではない。
「櫻ちゃん」
「風邪をひく」
　いつも通りのどこか素っ気無いような声と共、ふわり、腹に毛布の感覚。櫻の温もりが僅かに移った毛布を抱きしめる格好で、武道は身軽く起き上がる。いつ化物が襲ってくるか分からない、気を抜く方が難しい環境で、ぎりぎりまで気を張り詰めさせ、いっそ青白いような顔色で前に立つ櫻を真直ぐに見上げる。
「アーソウダ、櫻ちゃん！」
　ケロリとした顔で笑って見せる。
「あの言葉きかせて！」
「あの言葉？」
　白いうなじを傾げて瞬く櫻に、武道は頷く。今まで耳にした中で最強の呪文を唱える。
「『生きろ』」
　そう言ってくれたら、と笑みを深くする。
「俺きっと折れずに頑張れるからさ！」
「……志波」
　櫻は、絶望的な状況にあって笑みを絶やさぬ男の名を口にする。
　口にして、気付いた。目の前の男の名が心に温かな力を与えてくれることに。
（……私も）
　同じように、彼に力を与えられるのならば。
　期待に胸膨らませた表情で待っていてくれる武道の前に跪く。両手を伸ばし、陽に焼けた頬を包みこむ。半ば強引に視線を固定し、男の瞳を真直ぐに覗き込む。
「志波」
　額に額を合わせ、祈るように囁きかける。
「……生きろ」
　そうして誓う。
「私も生きる。二人で、生き抜くんだ。絶対に」
　そうして微笑む。
　こういう時だからこそ笑う、その気持ちが分かった気がした。
　武道が掛けた眼鏡の縁が額に触れて、その下の武道の瞳のあまりの近さに、櫻は白い頬を紅く染める。魔法は掛け終えたとばかりに急いで立ち上がろうとして、
「オウイエー！」
　親しい友人にする動作で軽く肩を叩かれた。いつもの笑顔を浮かべる武道の頬が赤く見えるのは、だからきっと気のせいなのだろう。
「さって、明日も頑張って生きてこうぜぃ！」
　武道は勢いつけて立ち上がる。
　もう青い空は見られないかもしれない世界で、絶望ばかりかもしれない世界で、ふたりは笑み交わす。
　最後まで、笑って生きていく。

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あとがき

担当マスター：阿瀬春
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お待たせいたしました。
終焉の世界の一幕、お届けにあがりました。

終焉の世界において、みなさま、とても熱いアクションでした。その熱さやひたむきさを少しでも文章にできておりましたら幸いです。

あと、すみません、これまで出来るだけ個別メッセージはお届けできるようにして参りましたが、これからしばらく、個別メッセージはお休みさせていただきます。
もしも楽しみにしてくださっている方が居られましたら（の話なのですが）、申し訳ありません……。

とにかくとにかく、少しでもお気に召して頂けましたらうれしいです。
ご参加、ありがとうございました。

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