INFINITE†NIGHTMARE｜リアクション

INFINITE†NIGHTMARE

　駆けつけた玄関の大階段下で、英二が仰向けに絶命していた。
「酷い——！」
　エージェントであるロベルトすら思わず顔を歪めた英二の死に様は、天井を見上げてイカポッポを口に咥えたまま生き絶えるという残酷なものであった。悲鳴で駆けつけたレナートの友人、屋敷野梢は、ガクガクと震えの止まらない体を友人に預けて口を覆っている。
「どういう事だ！」
　主人のエリセイに襟首を掴まれたフットマンの御剣刀は、両手を上にあげて身の潔白を証明しようとしている。
「し、知りませんよ！　俺が此処へ通りがかった時には既に——」
「本当かな？」
　タルトは射抜くように刀を見た。
「屋敷に入ってきた中で一番の新人はキミだし、第一発見者なんて、僕は一番信用ならないって思ってるんだけど」
　タルトに乗せられて、屋敷の住人たちが皆一斉にこちらを向いたのを恐ろしく思い、刀は思わず声をひっくり返らせる。
「そんな無茶苦茶なッ！」
　弁明も一切聞かない淀んだ雰囲気に、刀は歯噛みし、誰にも聞こえない声で毒づいた。
「なんてツイてないんだ、『来たばかりの世界』でこんな目に遭うなんて！」

　しかし彼が魂に命じられし『世界を渡る旅行者——ワールドウォーカー』だという事は、誰にも明かせない秘密である為、それを出す訳にはいかない。何とかこの場を切り抜けようと考えを巡らせていると、ただ一人、この屋敷の中で刀の味方をしてくれる者が居た。
「まあまあ皆さん、落ち着いて」
　ロベルトだ。
「まだ犯人が彼だと決まった訳じゃないよ」
「そうだな。まずは警察を——」
「待って兄さん。警察を呼んだら、彼らはロベルトさんの事も調べるんじゃないの？」
　末弟に忠告されたエリセイが、眉を寄せる。と、そこでレナートが「おい！」と慌てた声を上げた。彼が支えていた梢が、凄惨な殺人現場に耐えられず、遂に意識を失ってしまったのだ。青白い頬を軽く叩いても起きそうにない。
　不安げなレナートの横にさっと座って、タルトは梢の様子を見る。
「貧血のようです。レナート様、梢様を客室に」
「ああ」
　梢を抱き上げたレナートは、タルトに先導されて輪から抜けていった。
「兎も角、一度落ち着いた方が良さそうだね」
　イリヤの言葉に一同は頷いて、一旦解散する事となった。これから次の惨劇が起ころうとしているのも知らずに——。　

「えりへいへんぱい」
「英二、屍体なんだから黙ってなきゃダメだろ？」
　仰向けになっていた身体を起こしながら、被害者の屍体役の英二は、喉に突き刺さったように見えるようにずっと噛んでいたイカポッポを自分の口から引き抜いた。
「その屍体の振りっていつまでやってればいいんでしょうか。そろそろ顎が疲れて——」
「うーん……犯人わかるまで？」
　隣で両膝を曲げたエリセイが答えて首を振るのに、英二は顎をマッサージしながら冷や汗をかいている。
「え！？　犯人わかるのってまだまだですよね！　嫌ですよそんなむごぉッ！」
　拒否する英二の割り箸の串を持った腕を掴んで、もう一度いかぽっぽを彼の口に突っ込むと、エリセイは人の悪い笑みでこう言った。
「寝てればいいんだから楽ちんじゃん」
「じゃあ、へんぱいが、これ、かわりまふか？」
「やだね」
　ゲラゲラと笑い出したエリセイをじとっと恨めしく見つめてから、諦めて目を閉じてた英二は、イカポッポの味を噛み締めている。

　と、そんな彼を影から見つめる少女がいた。
　光の魔法使いだ。
「……生きていたのですね。あなたには闇に対抗する術を授けましょう。
　しかしまだその時ではありません。
　戦いが始まるまで、もう少し眠っていて下さい」