——ベルベットの暗闇が広がる荒野に、裁きの雨が降り注ぐ。少女は寒さに震える肩を二人の兄に抱かれながら、ただ一筋の光を目指している。
覚醒の刻を夢想し、黒き翼が契約を告げる。さあ、今こそ教会の扉は、贄の少女出迎えようぞ!
† † †
「ってそんなことよりココが何処だか分かる人は?」
扉を開けて教会に入ってきた双子の兄弟——
エリセイ・ジュラヴリョフと
レナート・ジュラヴリョフは、ベンチに座る面々を見ながら困った笑顔で答えを募った。しかしこの教会にいる誰もが、『気づいたらこの不思議な世界に降り立っていた』為、答えられる者は誰一人いない。
雨模様の空は夜のように暗く、教会の周囲は荒れ果て何もない世界だった。何より妙なのは、皆の頭の上にカタカタとキーをタイプする音と共に浮かび上がる地の文らしき文字だ。それが恐ろしく中二チックだとか、弟の
イリヤ・ジュラヴリョフは詰襟の中学生で少女では無いとか、その辺は一旦置いておこう。
「確かベッドに入って寝た筈なんだけどな」
首を捻る兄弟と共に他の中高生たちも同意を示す。夜眠りに落ちて辿り着いた場所だから、夢の世界なのだろうか——。そんな当たり前の推理をしていた時、高校生の少女が前に躍り出た。
「スミマセンスミマセンッ! この世界はある女の子の夢の中なんです」
教会の中庭に出て建物を見上げると、屋根の上に体育座りをしている少女が見えた。
「
大道寺 紅緒ちゃん。寮で同室の私の親友で、ラノベ小説家……じゃなかった同胞に捧げし聖典を紡ぐダークミンストレル……さんです」
伊橋 陽毬と名乗った少女は、眉を下げながら屋根の上の友人を皆に紹介した。
陽毬によると、この世界を作り出したのは『もれいび』紅緒の『ろっこん』の力らしい。ろっこんの存在を知らない者も、夢の中とあって陽毬の説明をなんとなく聞き流している。
「紅緒ちゃんはいつも、夜眠ると夢の中で妄想……じゃなかった乙女の鮮血より創られし悪夢を纏めるんだって言っています。
締め切りに追われている日に紅緒ちゃんが眠るとろっこんが発動して、……多分ですけど
同じ部屋にいる人が、この世界に入ってしまうんです。
いつもなら私だけが、たった一人の傍観者だったんですが——」
ここには多くの人が集まっているし、紅緒の創作した物語の登場人物は一人もいない。恐らく紅緒のろっこんが原因不明の『暴走』を起こしてしまったのだろう。
「なら朝になればここから出られるって話しだよね。紅緒さんの妄そ……」レナートは咳払いをして律儀に言い直した。
「乙女の鮮血より創られし悪夢は、彼女が目を覚ませば終わるんでしょ」
それなら大丈夫かと皆が安堵していたのも束の間、陽毬はまたも「スミマセン!」と割って入る。
「実は紅緒ちゃんは今、スランプなんです。もうすぐ締め切りなのに、作品のアイディアが全然湧かないって……」
だからこの世界は荒れ果て、ストーリーや登場人物はおろか建物さえ存在していなかったのだ。
「でも紅緒ちゃんが妄想を終わらせて
空に『終』の文字が浮かばないと、この夢からは出られないんです!
いつもなら紅緒ちゃんの妄想はきっちり朝ごはんの前に終わるんですが、前に上中下巻同時発表の超大作のアイディアを練っていた時の夢はすっごく長くて、紅緒ちゃんも私も起きたら夜になってて……」
おまけにこの夢に落ちると紅緒が起きない限り、外因で起きる事はないらしい。
「ねぇ兄さん、
このまま紅緒さんの夢が終わらないと、皆起きられなくて遅刻しちゃうんじゃないの?」
イリヤがいち早く気づいた事実に、皆は声にならない悲鳴をあげた。学生や社会人にとっての一大事だ。混乱にざわつく中で、軽く首をかしげたエリセイがこんなことを皆に提案した。
「登場人物が居ないなら、皆でやればいいんじゃね?」
此処で俯いて微動だにしなかった屋根の上の影がピクリと動き、皆の様子をギラついた目で観始める。
「
皆で適当に話をぶち上げて、ストーリーを完成させるんだよ。
要は終わりの文字が出ればいいんでしょ。紅緒さんが満足すればそうなるんじゃないの?」
「貴方ッ! 良い事を言ったわね!」
唐突に立ち上がった紅緒が、片手を腰に中庭に人差し指を突きつけた。
「深淵の物語に辿り着かないまでも、この闇ノ吟遊詩人(ダークミンストレル)が若き幻影を見定め、天に終焉の鐘を鳴らしてみせますわ。
さあ、私を満足させなさい!!」
と、完璧に格好がついた直後に、紅緒は屋根の傾斜にバランスを崩して足を滑らせかけ、ヒイッと派手に悲鳴をあげながら、真っ青な顔で風見鶏に掴まった。——あんな危ないところ登らなきゃよかったのに。そう思っている皆へ陽毬が向き直る。
「私も頑張ってみるから是非お願いします、だそうです」
皆さんこんにちは、東安曇です。
今回のシナリオの目的は、『NPC大道寺 紅緒の妄想劇場ろっこん——紅緒ドリームを終わらせて、PCが目覚ましをかけた時間通りに起床出来るようにする』、です。PCが作る物語1つ1つが繋ぎ合わさり、紅緒がそれなりに満足すれば、夢は終了します。
PLはアクション欄に『自分の考えた簡単な物語(及びその際のPCの役割)』をご記入ください。
頂いた物語をマスター側でつなぎ合わせ、ごった煮に致しますので、参加PL同士の考えたアクション(物語)がてんでバラバラでも構いません。物語の内容がどんなものでも構いません。過度に残酷な描写や性的、下品なものは反映出来ない可能性が高いので、そちらだけお気をつけください。
また、全てが適当にくっついていくので、内容はシリアスにはなりづらいでしょう。
他PLさんの考えた物語の中で、提案された配役が割り当てられることが御座いますので、あらかじめご了承下さい。
暴走中の紅緒ドリームの中では、PCが想像するだけで好きな服装になったり、適当な建物やアイテムを登場させられますが、別人に変身するなど外見が著しく変化することは有りません。
物語にはNPCを参加させる事も出来ますが、モブも登場しませんので、なんとなく居る体で誤魔化す……などしてみてください。
特殊なシナリオですので、サンプルアクションも是非ご参考下さい。
ヒント:あれをしたりこれをしたりと多岐に渡って行動するよりも、一つの行動をとった方がリアクションに反映しやすくなります。
【紅緒のろっこんについて】
現在以下の能力が暴走中で、PCたちは夢の世界に閉じ込められています。
ろっこん名:
悪夢†輪舞曲(インフィニットナイトメア)紅緒ドリーム発動条件:締め切りに追われてるときに眠る
能力内容:付近にいる人が紅緒の夢の世界に入ってしまう
【NPC】
以下のキャラクターと関わるアクションが可能です。(関わらなくても問題は有りません)
『大道寺 紅緒』
鮮血より創りだした悪夢を聖典化する能力を宿した闇ノ吟遊詩人(ダークミンストレル)、
若き魂を幽閉せし牢獄に身を隠す黒き翼の乙女と云フ仮の姿を持つ。
という自称設定の、寝子島高校1年1組所属のライトノベル作家。ガイド冒頭の(御察し頂いている)ような作風を好みますが、その実態は——。
『伊橋 陽毬』
寝子島高校1年1組所属。紅緒の親友で少し気弱な普通の少女です。やや突っ込み体質。
『エリセイ』
寝子島高校2年3組所属。三兄弟の長男。イマイチつかみどころの無い性格をしています。
『レナート』
寝子島高校2年2組所属。三兄弟の次男。面倒見のよい(?)イケメン天然(?)人たらしです。
『イリヤ』
寝子島中学3年1組所属。三兄弟の三男。素直で思ったことをストレートに述べるが、思慮深い性格です。