濡羽色の空と踊れば｜リアクション

濡羽色の空と踊れば

【守るべきもののために】

　御剣刀は、出し物の喫茶店の仕事をしているさなかで、その異変を察知した。
　刀はすぐさま休憩時間をとると、武道場へ寄って愛用の木刀を引っ掴み、部室棟周辺へと走った。
「こんなときにまた神魂絡みの事件かよっ……！　邪魔なんてさせるかっ！」
　木刀を片手に人通りの少ない道を選んで駆け抜けながら、刀は胸の内を叫ぶ。
「いた！　すごい数だ！　けど、たとえ何羽いたって、こいつで全部切り払ってやる！」
　刀は目標のカラスを見つけるや否や、木刀を構えて臨戦態勢に入った。
　カラス達もまた刀の存在を認めるや否や、臆することなくそちらへ殺到していく。
「そっちから向かってくるか！　上等だ！」
　刀はカラスの動きをしっかりとその目で見極めると、その攻撃を完全なタイミングでかわし、カウンターで木刀の重い一撃を喰らわせた。
　しかし、
「なにッ……！？」
　刀は目を見開いた。木刀の斬撃がカラスを切り裂いたそばから、二羽のカラスに分裂してしまったのである。
　と、増えたそばから二羽のカラスが反撃に転じて襲い掛かってきた。
「くっ……」
　刀は慌てて転がり込むようにしてカラスの体当たりをかわす。
（木刀じゃ駄目か。それなら――）
　刀は次の瞬間には木刀を置いて、徒手格闘の態勢に移っていた。
（突っ込んでくるカラスの軌道を読んでそこに手を伸ばして、首をへし折る！！）
　刀の黒い瞳に冷たい殺意の光が宿る。彼の手が黒いカラスの喉元に伸びて、その腕に、指先にぐっと力がこめられる。
　ボキリ、と鈍い音を立てて、カラスは声を上げる暇もなく絶命すると黒い粒子となって弾け、跡形もなく消え去った。
「よし！」
　消えたカラスにはもはや一瞥もくれず、刀は次の標的へと向かって手を伸ばす。
　そこに、情けや、容赦といったものは何も感じられない。
　目的のためなら、非情にもなれる。
　そんな刀の危ういまでのひたむきさに、彼を取り巻くカラス達の表情もどこか恐々としているように見えた。

　　　＊　＊　＊

　小山内海もまた寝子祭の存続を危うくする事件に直面し、自らのろっこん、《アクセラレイトライン》を駆使して、カラスの駆除に奔走していた。

（寝子祭の邪魔は、させないよ）

　海は声にこそ出せなかったが、その表情から寝子祭を守りたいという気持ちは見る者に強く伝わってきた。
　その想いをろっこんで加速させた石に乗せて、海はカラスにぶつけようとする。
　だが、

（……っ、ふっ、増えた！？）

　鋭い弾丸と化した小石に身を引き裂かれ絶命したはずのカラスは、次の瞬間には再生して二羽のカラスに分裂していた。
（普通のやり方じゃ駄目ってこと？　それなら――）
　海は頭を切り替えて、さまざまな方法で攻撃を試みる。
　飛んでいるところではなく降りてきたところを狙ってみたり、ロープの両端にネジをくくってつくったボーラをろっこんで飛ばして捕縛を試みたり。
　だが、上手くいかない。　
（……私の能力じゃどうしようもないか。それなら――）
　そこで、海は踵を返し、ある人物の姿を探して走り出した。