濡羽色の空と踊れば｜リアクション

濡羽色の空と踊れば

【閃く刃と煌めく炎】

　いつのまにか部室棟は黒いカラスで溢れ返っていた。
「……やれやれ。それにしても、面倒な相手じゃのう」
　夏神零は一つ溜息をつき、カラスの攻撃を華麗な舞でかわしながら、（さて、どうしたものかの？）と考えた。
（見る限り、木への衝突やろっこんの斬撃といった『致命的』かつ強い一定ダメージで増えるのではなかろうか……）
　ならば、と零は開いた手を固く握りしめつつ、致命傷にはならないように力を抜いた拳で、突撃してくるカラスにカウンター攻撃を見舞う。
　しかし、おそらくは神魂の影響で狂暴化しているのであろうカラス達は、ちょっとやそっとのダメージではひるまない。次から次へと向きを変え、角度を変えて、全方位から零に襲い掛かってくる。
「くっ……。これでは埒があかないでござるっ……！」
　なら、どうすれば――。
　そう思ったときだった。

「……カラス。またあいつの仕業か」

　コツン、と渇いた靴音を鳴らして、白い仮面を被った赤毛の少年が姿を現した。

「……斗南、殿？」

　いつになく静かな、けれど確かな怒りを感じさせる灯斗南の声に、零はしばしあっけにとられたように目を瞬かせる。

「……寝子祭の邪魔は、させない」

「……ッ、待つでござる！　そいつは下手にダメージを与えると――」

　零の制止の声が届くよりも早く、斗南は手の平に熱い炎のかたまりを顕現させる。斗南のろっこん――《イグニッションハート（点火する心）》によって生み出された炎は迷うことなくカラスに向かって放出され、その濡れ羽色の翼を焼き尽くす。

「グギャァアアアアアア……！」

　カラスの悲痛な叫びが零の耳をつんざく。
　しかし、炎は情け容赦なくそんなカラスを包み込んでいく。
　一片の慈悲も、分裂する暇さえも与えられず、カラスは真っ赤な炎に飲み込まれたままやがて跡形もなく消えた。

「……増え、ない？」

　零は赤い瞳を見開いて、呟いた。
　それに斗南が仮面の向こうから静かな口調で答える。

「……カラスが分裂するのはここに来るまでに何度か見て知っている。切っても、ぶつかっても増えるなら、まとめて焼き尽くしてしまえばいい」

　斗南は何でもないことのように言ったが、それは彼のろっこんであればこそできる芸当であって、決して簡単なことではなかった。
「……やるぞ、零。部室棟のカラスをここで根こそぎ焼き尽くす。会場の方にはいかせない」
「うむ」
　零と斗南は頷きあうと、次から次へと増えていくカラスの群れのただなかへ、駆け出した。

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