寝子島高校救出戦｜リアクション

寝子島高校救出戦

●●●フツウに溶け込む●●●
「…良かったのか？　その子、死にそうだぞ」
「うるさいヨォ！　ただでさえこの前の傷が癒えてないんだヨォ！？」

　寝子島高校の一室に異空間を作った傀儡師は苦笑いをする。
　ピエロが相手の生命力を気にせず食いつくそうとしたからだ。
　ため息と共に肩を落とす傀儡師は異空間と現実の狭間、教室の扉を見る。
　正確にはその先にある、力の塊を。

「テオから情報を得ている人物は他にもいるはずだ。まずはそれを待とう」
「戦力は多い方がいいもんね」

　傀儡師の視線の先、八神修は空き教室の扉に背を預けながら逸る気持ちを押さえ込む。
　椿美咲紀は修の言葉に首を縦に振り、肯定をする。

「…とうとう、関係のない一般人にまで手を出したんですね」
「梢ちゃん、笑顔が怖いわよ？　気持ちは分かるけど、気を乱したら危険よ？」
「え？　そんなことないですよ、尾鎌さん」

　作り笑顔を張り付けながらピエロに悪態をつく屋敷野梢。
　気を巡らせ、戦闘体制を整えていた尾鎌蛇那伊は梢の状態を心配する。
　気持ち的には、梢が早く突入したい気持ちなのは痛いほどに伝わってくる。
　ふと、外に目を向けると走っている二人が目に入った。

「俺が護りたいものに手を出したのか！」
「あの野郎、今度は一体何をしでかしやがった！」

　自分の日常を、フツウを守るために力をつけている御剣刀。
　彼が護るべき場所に、ピエロは現れ、何かをしている。
　生徒や教師にその魔手が伸びている可能性は濃厚だろうと考えていた。

　そんな思いと一緒に隣を走るのは風雲児轟扮するザ・ストレイトだ。
　ローカルヒーローを目指している彼も守るべき者たちを心配していた。
　ピエロへの怒りももちろんあるが、それは二の次だ。

「……」
（腕の傷は完全に癒えていないが充分使える。しかし酷使はしないほうがよさそうだな…。それ以外は良好か）

　一方、地下道での戦闘の際に参加していたヨハン・プレストンもまた情報を聞き、走っていた。
　ピエロとの直接戦闘は無かったものの、因縁があることには違いがない。
　しかし、飛び出した元は病院、出来るだけ安静にと言われているのも事実であった。
　片腕の自由が利きにくい状況で、ヨハンは走る。

「うぅん、ちょっかいかけられ続けるのは厄介だなぁ」

　飼い猫を家に置いてきて、学校へと走るのは同じく地下道での戦闘に参加していた桜庭円だ。
　ピエロと言っても地下道で出会ったピエロとは限らないのだが、十二分に有りえる。
　自分達のフツウ、それを守るためにただ走るのだ。

「ある程度人数が揃ってから、突入するのがいいだろう」

　彼らが目指す場所に最初に到着した修の言葉に頷くもれいび達。
　修は異空間に入ってから様子を見ようとした。
　だが、美咲紀を待っている間に少しずつもれいびが増えていったのだ。
　それならば教室前で待機をして突入したほうが効率的だろう、と考え今に至る。

　そこにひとが通りすぎようとした。
　空き教室ではあるものの、廊下であるからには珍しくはないが、そのひとはふらついていた。

「…風邪引いたかなー。はぁ…荷物荷物」

　修が声をかけようとしたとき、そのひとは空き教室のもう一つの扉を開け、中に入って、閉めた。
　唖然としたのも一瞬、もれいび達は慌てて後を追った。

このページにイラストを設定する