ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～ユメギワ空想楽団｜リアクション

ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～ユメギワ空想楽団

【レッドゾーン】

「く……ッ」
　黒く恐るべき剣閃が首元をかすめ、浴びるちりちりとした殺気が本物であることを、御剣刀は刹那に悟りました。とっさに引き抜いた刃引き刀でその殺意を受け止めるも身体ごと弾き飛ばされ、刀の両足は衝撃に地を滑り、びりびりと痺れた両腕に、彼は目の前のそれが、あまりに危険な現象であることを痛感します。
　剣速、打ち込む膂力、体捌きの巧みさに瞬発力。どこを見ても刀とは互角、力は拮抗しており、一瞬たりとも気を抜けば、即座に首を撥ねられるでしょう。
　それに、手の内は全て知られているはず……なぜなら目の前の相手、昏がりのように黒い刀身を構えた剣士は、刀自身の影が実体化し、形を成したものであるからです。
　九夜山の山頂へと続く道。夜をほのかに照らす月影が、ふたりの剣士の死合いを、恐ろしくも荘厳に演出しています。
　一閃。横薙ぎの一刀を刃引き刀で受け止め、すぐにも半身を翻して上段からの斬り下ろしを避けつつ、足元から反攻の一撃。けれど斬り上げた刃は文字通りに空を切り、首を狙った大振りを潜りながらに繰り出した鋭い突きは、後方へ跳ね退いた影を穿たず。
「くそ、ヤバイな……」
　双方の力量は釣り合う天秤のごとく、けれど目に見えて異なる点がひとつだけ。それこそが、刀と影を分かつ決定的な、そして致命的な相違です。
　幾度かの剣戟を経て、人である刀の身には疲労が溜まり、荒げた息で肩は上下します……対する影は、疲れというものとはどうやら、無縁であるようなのです。
「このままじゃ、いずれ……、ッ！！」
　樹々の合間、夜空へと響く金属音。斬り結ぶ刃同士が散らす火花……やがて、目の前に影刃。刃引き刀とぎりり、鍔迫り合いに擦れ合い、軋んだ音を上げる黒刀の切れ味をその身で味わったが最後、刀の道はそこで潰えるでしょう。
　押し合いはすぐにも、そのバランスを崩し始めます。影に疲労はありません。刀は押し込まれ、踏みとどまる足は今にも膝を付き……、
「…………！？」
　樹々と夜空、月明り……影の剣士。視界の中、それらとはあまりにも異質なものが映り込み、刀は目を疑いました。

♪『神落ち島悠久普遍神話体系』

演奏　ユメギワ空想楽団

「何だあれーっ！？」
　シリアスな戦闘シーンへ割り込むように登場するのはそう、彼ら！　きっともう皆さんご存知、ユメギワ空想楽団！
　演奏するのは古き良きクラシックの壮麗で豪奢な響きを感じさせながら、ゲームかアニメのバトルＢＧＭとしても採用できそうな、神話に語られる神々の戦いを演出するような……ともかく、ノリノリでカッコイイ曲っ！
「いや、何事！？　誰ー！？　ていうかそんなところにいたら危な、うわっ！？」
　しゅば！　と黒い刃が閃いて、刀の胸元へするりと赤い筋が走り、うっかり目を離した隙へと、影の剣が襲い掛かります。慌ててぎいんっとそれを弾き返して、
「何だか、良くは分からんが……！」
　くるりと反転、影の剣をひらりと避けまして。腰だめに構えた刃を、横一閃！　影の一部をすぱんと斬り裂いた手ごたえに、刀は、
「疲れが消えた……身体が軽い。これなら、いけるッ！！」
　ぐん、と踏み込む足が、刀を影の懐にまで、一気に運びました。彼が本来の力を発揮したなら、もはや誰も追いつけはしません……影すらも置き去りにするほどの、このスピード！
　斬り上げざまに影の剣を夜空へ弾き飛ばし、返す刀で、
「これでッ、決まりだ！！」
　上段から、渾身の袈裟斬り！

　真っ二つに分断された影は、しばしゆらゆらと宙を揺らいでから、すごすごと刀の足元へ戻り、主人の動きに追従する仕事を再開しました。
「……たっ、助かった……」
　どうやら、現象は収まったようです。
　刀に力を与えてくれたらしい勇壮なＢＧＭは、いつの間にやら勝利のメロディへと変わっておりまして、見れば白いスーツの楽団員たちが、揃って刀へサムズアップ！
　刀は苦笑いを浮かべつつも、ほっ、と安堵の息をついたのでした。